魔王と右腕の結婚生活に問題が発生した話

 リムルは激怒した。ベニマルの進化には子供が必要であった。リムルには性別がない。リムルは、無性のスライムである。国を作り、様々な存在を受け入れ、大抵のことには寛容であった。けれども、浮気や二股に対しては、人一倍敏感であった。
 と、ふざけている場合ではない。リムルは本当の本当にブチ切れており、椅子に座り踏ん反り返って、ベニマルが正座して沙汰を待つのを、冷ややかな目で見ていた。
 様々な事情と経緯で、ベニマル達幹部を魔王クラスに進化させてやろうと思い付き、衆人環視の中、ベニマルの進化を試みたのだ。その時、思考加速と思念伝達で伝えられたベニマルの未練を聞き、リムルは思わず胸倉を掴んで投げ飛ばしたくなったが、いつもクールでナイスな男であるリムルは冷静さを失うことなく、思念伝達で「お前、あとでシメるから覚悟しとけ」とだけ伝えると、他の幹部の進化を進めたのであった。
 そして現在、ベニマルはリムルの庵の地下に呼び出され、ずっと無言で冷や汗を掻きながら、リムルの言葉を待っているのである。
「お前さ、俺がなんだか知ってるよな」
「……スライムです」
「おお、覚えててくれたか。で、スライムってどうやって増えるんだっけ? 元人間だから、俺、そういうの忘れやすいんで、教えてほしいんだ」
「……交配して子供は作りませんね」
「へえ! そうなの! んで、お前、未練がなんだって?」
「すみません!!!」
 土下座されたが、それで問題が解決できれば警察はいらない、じゃなくて、こんなにリムルが激怒する筈がないのだ。
「子供いらないっつってたじゃん……」
「その、本当に、すまない……」
 ベニマルの、気さくで親しみやすくて尚かつ気侭なようでいて真面目な性格も気に入っていたが、まさかその真面目さによってこんな危機に陥ろうとは思ってもみなかった。ベニマル本人も戸惑っているので、浮気したくてあんなことを言い出したわけではないと分かるのだが、それにしたってあんまりにもあんまりではないか。不妊治療に悩むカップルよりも事は深刻なのだ。ゲイカップル間ではどのようにして子供問題を解決しているのだろうか、とリムルは過去の記憶から検索したが、無論、三上悟には無縁な話だったので該当は0だった。最強の相棒たる智慧之王だとしても、こればっかりはどうしようもない。
 元の世界から解決策を求めるのは早々に諦め、足を伸ばしてベニマルの股座に足先で触れる。ふにふにと無言で踏めば、ベニマルの混乱が伝わってきた。これを潰されることの恐怖はよく知っているので、今ここで踏み潰してやろうかとも思ったが、これは自身の幸せと楽しみのために残しておかねばなるまいと言い聞かせ、ぐいぐいと踏むだけに留めた。フルポーションがあるじゃんという悪魔の囁きは横に置いておく。
「お前がどんな種族相手でも子供作れるとはいえ、俺とは無理じゃん」
「……はい」
「はじめは喧嘩売ってんのかって思ったわ。それとも抱きたい女でもできたのかと」
「そんなつもりは毛頭ないッ!」
 必死に弁明するベニマルを見てもリムルの中にある蟠りは消えやしないので、口答え無用とばかりに足の力を強めた。ベニマルは息を呑んで黙った。
「国としてはお前を進化させて軍事力の強化をする必要がある。だから、その未練は必ず断ち切らなければならない。だが、俺は裏切りは許さない。どうすればいいと思う?」
 ベニマルは黙ったままだ。そうだよな、見つかる筈ないよな、とリムルは溜息をつく。リムル以外の誰とも関係を持たないで子供を作れる筈がない。だが、誰かと関係を持つことで子供の生まれる可能性が生じる。生じてしまうということは、ベニマルはその相手を愛しているという証明になる。そんなのってない。ありえない。馬鹿にしてんのか。
 スライムになって涙を流せなくなった事を、こんなに感謝することはなかった。泣ける体であれば今頃もっと悲惨な状況になり、冷静さを保てなかったろう。でも、こんなに泣きたい気持ちになる状況も中々ない。泣けたらいいのにと願っても、目は潤むことすらない。
「ベニマル、俺はお前のこと好きだよ」
 こんなに好きになってしまうなんて、初めの頃には思いもしなかった。なのに、今では腹が立つほどベニマルのことを独占したいのである。その事実にもムカつく。
「だから、暫く俺に近づくな」
「えっ?!」
 驚きすぎて立ち上がろうとしたベニマルの股間をぐっと踏むと小さな呻き声を漏らしてまた座った。
「お前じゃどうにもできないなら、俺がどうにかするしかないが、お前がいても意味ないし、目障りだから暫く視界に入るな」
 それに加えて、過去の厨二病かつ下ネタな知識から製作した貞操帯を取り出す。単なるジョークグッズのつもりで職人達と悪ふざけで作ったものが、ここに来て役に立つとは。ベニマルの股間に鎮座するデカい性器に貞操帯を嵌め、鍵をかける。金属製の貞操帯を装着したベニマルの滑稽さに思わず笑ってしまう。笑わなければやってられない。
 そんなリムルに対し、ベニマルが混乱と絶望に陥っているのが無言でも分かるが、リムルの怒りの前では全てが無駄なのだ。
「安心しろ。排尿はできる。糞する時は気をつけろ。呼び出したくなったらこっちから声をかけるから、それまで話しかけんな。じゃあな」
 ベニマルを置いて、リムルは執務館の自室に戻った。最早ベニマルと話し合うことなど何もない。あとはリムルがどうにかするしかないのだから。

 ベニマルどころか、魔物連邦国の魔物達がついてこれないほどの高度を飛ぶと、少しは気が楽になった。
 なにせ、空には何もない。あまりにも広くて、孤独で、爽快だ。
 リムルは本来そのように生きる筈だった。男でもなく女でもないので、誰かと付き合うどころか、好きになれるとは思っていなかった。仲間や部下を大切に思う気持ちも勿論愛と呼べるだろうが、たった一人の相手を特別に想うことはないだろうと何となく思っていた。
 だが、何の因果か、運命のいたずらか、ベニマルと関係を持ち、情を深め、求めあい、今や伴侶となった。即ち特別な感情で愛しているのだ。
 ただただ心地よかった愛は、今、リムルを苦しめている。独占欲はリムルの心に深く根差し、絡みつき、締め付けている。体の全てが万能細胞であり、心臓なんてないのに、胸の辺りが痛いような気がしてならない。胸が張り裂けそうとはよく言ったものだ。そして、悲しみと怒りと絶望がないまぜになって、リムルから冷静さを奪う。
 想像したくないのだ、進化の為に子供を求めて誰かを抱くベニマルを。それだけの女と言われても構わないと思う者もいるだろう。そして、子供を作るためにベニマルはその女を愛さなければならない。魔物とはそういう生態なのだ。
 だが、他の女のことを、リムルを抱いた時のように優しく扱い、その内に入り、より強い快楽を得てしまったら? リムルの体は擬態でしかない。本物の女には勝てないかもしれない。ベニマルは当初この関係を衆道と称し、主従関係の強化の一環と捉えていたが、今でもその認識でいるならば、他の女を作ることも許容できてしまうかもしれない。いや、あの性格では無理の筈、その筈だけど、万が一が起きてしまったら? 恋愛感情ほど不確かなものはない。指輪を与えたとしても感情は縛れない。ベニマルが他の女をリムルより優先するようになったとして、その時、リムルはどうなる?
 考えたくない、考えたくない、考えたくない。
 シズの仮面を被り、己に冷静さを与えようと試みたが、それでも溢れる悲しみと恐怖は収まらない。シオン達を失った時とはまた違う、この感情は制御できない。ただただ、どうしよう、考えたくない、その気持ちで一杯で、状況を打破できるような手段を講じる事ができない。
 こんな気持ちになるくらいなら、好きにならなければよかった。それなら、今頃ベニマルを茶化しているだけで済んだ筈だ。誰にも打ち明けられない程の激しい苦しみでのたうち回ることはなかっただろう。その上、ベニマルに酷い事をしてしまった。八つ当たりなんて、最低だ。こんな惨めで無様でみっともない男にはなりたくなかった。
 そのまま、上へ、上へと昇っていく。誰もいないところがいい。思考加速で感覚と時間をずらせば、数分後には冷静になれる筈だ。それから考えればいい、と思ったのに、まだ感情は落ち着きを見せない。マグマのごとく、ぐつぐつと煮え滾り、決して収まることはない。これが噴火したらどうなるかは分からない。
 なんて馬鹿げた奴なんだ、と己を罵っても埒が明かない。でも、こんな気持ちのままではベニマルにもっと酷いことを言うかもしれない。それはもう嫌だ。多少の嫌味はいいとして、それ以上は暴力に過ぎない。そんな事をしたいわけではないのに、今の感情はベニマルを攻撃したがる。早く冷静にならなきゃ、と思えば思うほど追い詰められる。
 そんな時、魔力感知で悪友達の接近に気付いた。ヴェルドラもラミリスもミリムも一様にいつもとは違う様子でこちらを伺っている。恐らく、ヴェルドラが魂の回廊でリムルの激しい感情の起伏を悟り、更には国から離れ離れてかなりの上空に至ろうとしているので、心配になってやってきたのだろう。
「どうしたのだ、リムル?」
 涙こそ流していないし、仮面を被っているから表情も分からないだろうに、かなり心配させてしまっているようだった。
「なんでもねえよ、俺の問題だ」
「盟友である我にも言えぬことか?」
「それは……」
「話すだけでも楽になると聞くぞ。どんとワタシ達を頼るのだ!」
 彼らが普段のお馬鹿なノリではないのが、余計にリムル自身がどれ程取り乱しているのかを教えてくれるようで、情けなかった。ただ、多分おとなしく聞いているだけ、ということはないだろうけれど、それでもその心遣いが嬉しくてリムルは口を滑らせた。
 最古の魔王だとか竜種だとか、やたらとぶっ飛んだ存在である連中にはリムルの不安を理解できないようで、ベニマルの子供の問題は別の女に任せるしかないと諭された。
「種族として子供ができぬスライムには無理な話だ」
「でも、嫌なんだよ、ゾッとするというか、他の奴を抱くなんて許せない」
 今までこの世界に生きている連中には想像できないような無茶や不可能を可能にしてきたのだ。もしかしたら何とかなるかもしれない、と主張すると、より一層やめておけと止められた。
「恐らく不可能であろうが、もしも、万が一、いや、億が一、子供ができれば、名付けとは比べ物にならぬほど魔素を奪われることになる。ベニマルは進化するから取り戻せるかもしれんが、リムルはどうなるか分からんのだぞ」
「いや、でもそんなことないだろ?」
「ベニマルって本気じゃないのにリムルの伴侶になったってこと?」
「……毎度本気100%超だな」
 俗っぽく言えば本気種付セックスって感じだ。普通に妊娠する肉体であったならば何人子供を産ませるつもりだというレベルである。もしも子供ができたら、確かにかなりの量の魔素を失うことになるだろう。ただ、ベニマルが他の女を抱く事も、子供を成す事でその女を愛したのだと突きつけられるのも、認められないのだ。悲しくて辛くてどうしようもない。あまりにもいろんな感情が複雑に絡み合っていて、解体できないから混乱して取り乱しているのだということは分かっている。
「苦しむくらいなら、やめてしまえばいいのだ!」
 ミリムはそもそもベニマルとリムルの関係を容認していないらしい。秘書共同様にそれはお節介と突き放したが、それでもまだ諦めていないようである。その上、これを機に離縁しろとか言い出した。もう本当におこちゃまで困る。それをしたくないからこんなに喚き散らしているのだ。
 ただ、リムルはギャアギャア騒ぐミリムとそれを宥めるラミリス達を見て冷静になってきた。漸く、考えるべき事と、考える必要もない事を切り分けられそうだ。
「それでも、俺は諦めたくない」
 こんなに好きになったのは生まれて初めてで、取り乱すくらいとても大切で、絶対に何があっても手放したくない。他の誰かなんてその目に映すことがないくらい、リムルだけを見ていてほしい。最初の頃を思い返せば不思議なくらい、ベニマルのことが好きになってしまった。ならば、やるべき事は決まっている。
「ありがとな、皆。お前らのおかげで冷静になれた」
「……リムルはバカなのだ」
 拗ねた様子でミリムはリムルを抱き締めてから、去って行ってしまった。ヴェルドラ達もリムルに無茶はするなとだけ言い残して帰っていった。本当にリムルの事が心配でやってきただけなのだろう。何だかんだで、かけがえのないリムルの大切な友人達だ。いい友達に恵まれたな、と実感しつつ、リムルは考えるべきことに取り掛かった。
 そうして、新たな究極能力『聖受胎』(サンタ・マリア)を獲得したのであった。

 三日後、無事に進化を終えたベニマルを呼び出し、向き合う。リムルは相変わらず不機嫌というか、微妙な顔をしている。苦々しいというか、どうにもすっきりしないというか、非常に納得がいかないというか、それはもう対面する者が自分が何かしでかしてしまったのだろうかと疑いながらも怯えてしまいそうな顔をしていた。
「無事進化したみたいだな」
「お陰様で……」
「体調はどうだ」
「ばっちりです。進化前にいきなり魔素がガクッと減ったんで、どうなるかと思いましたが、今は寧ろ魔素量が増えました」
「そうか」
 リムルは黙って考え込むような様子であったが、決意して、先程の事を謝ってから、ベニマルに全てを話した。
「まあ、分かってると思うが子供が出来た」
「……はい?」
「どうやって、と聞きたいだろうが、俺にも正直理解できてない。色々考えてる内にいつの間にか俺の体内に発生してて、今でも気持ちが追いついてないんだ」
「? どういうことですか?」
「まあ、聞け」
 ベニマルの事を好きなんだから、余計な事を考えずにリムルができる事を考えて、それを頑張るしかないのだと冷静になり、万が一の可能性に賭けることにした。
 手始めに、妊娠のプロセスやシステムを復習した。中高の時分に学んだ事などすっかり忘れていたが、いつも頼れる智慧之王がきっちり分かりやすく解説してくれたので、精子と卵が交わり細胞分裂をして、着床する必要があることが分かった。子宮がない時点でリムルに勝ち目はないものの、リムルには智慧之王に統合された融合という能力がある。いつかリムルの遺伝子データを含んだ精子を作成できないかと研究用に溜めていたベニマルの数年に亘る量の精子と、リムルの万能細胞を融合させれば何とかなるのではないかと思いついたのである。
 研究用に取ってあったという言葉にベニマルが眉を顰めたのが分かったが、それくらいは自由にさせろと睨み返した。男らしさを取り戻したいという情熱の一環なのだ。
 さて、しかしながら、ただ混ぜ合わせただけでは魂は宿らない。生命として誕生することはない。また、ベニマルの子供として認められることもないだろうと智慧之王も回答した。大抵の生き物は細胞分裂という生命現象によって命を得る。魔物もそのあたりは変わらないようで、しかしながら、ただただ細胞の分裂をすればいいというわけではないから、リムルはそこで頭を悩ませていた。悩んで悩んで、智慧之王とトライアンドエラーを繰り返した結果、いつの間にか究極能力『聖受胎』を獲得し、世界の言葉を聞いた直後に今まで溜めてきたベニマルの精子全てと、リムルの体積の万分の一くらいの万能細胞が消費され、尚かつどういう訳だか精霊を体内に召喚し、それら3つの材料を混ぜ合わせて細胞分裂が起きたのである。
 リムルからしても理解できてない事態が発生したという訳だ。
 同時刻、未練を断ち切ったベニマルは進化を遂げたのである。
 事が急展開して解決したので、リムルとて呆れている。もっと長引く問題かと思ったのに、あれだけ苦しんでこの短期解決とは何事か。いや、ベニマルの進化が遅くなるよりずっといいし、ありがたいのはありがたいのだが、いきなり自分の中に命が誕生しましたなんて世界の言葉で告知されて、未だに混乱しているのだ。受胎告知ということか。ふざけんな、聖母じゃねえわと思うのだが、スキルの命名はリムルの好みを反映しているわけではない。
 兎にも角にも、リムルはベニマルの未練を断ち切ったのである。それだけは確かなことだ。
「つまり、間違いなくリムル様が俺の子を孕んでいるのか……?!」
「ソウデスネ」
 ベニマルが感極まってリムルに抱きついてきた。動くなとは命令してないからいいかと、リムルはされるがままである。
 『聖受胎』(サンタ・マリア)は、要するに異なる2つの遺伝子データと精霊を融合させ、生命現象である自己複製、即ち生殖を引き起こす能力だった。それに加え、智慧之王の権能を少々借用して、生命を生み出すのである。
 恐らく、今までケンヤ達に精霊を宿させたり、魂に関する情報を智慧之王が取得していたからこそ出来た無茶であろう。世界の理を超えたものを究極能力というのであれば、まさに、スライムで無性であるリムルが子を得るためには世界の理を超えなければならなかったのだ。
 だが、こんなふざけた能力を得るつもりなんてさらさらなかったので、リムルとしては絶対の絶対に他の連中にこの能力を知られたくないと思った。何を言われるか、分かったものではない。特に魔王連中からはかなり馬鹿にされそうな気がする。この直感は外れていないと思う。ギィとかルミナスに知られるのが一番嫌だ。どれほどからかわれるか想像したくもない。
 因みにこのスキル、ベニマルからは思い切り魔素を奪ったようだが、リムルは自分の万能細胞を120ミクロン提供しただけでなんの損失もなかった。よく分からないスキルである。
 生まれてくる子供は153日経てばリムルの体内から摘出できるという。方法は、普通に胃袋から出す感覚で構わないそうだ。出産とは鼻からスイカを出すようなものとか聞いたことがあるので、股から生み出すことがなくて本当に良かったと心から思う。痛覚無効を獲得しているとはいえ、そんな未知の体験はご遠慮願いたい。
 さて、もう何が何だか分からないが、とりあえず皆に言わなければならないのは分かっている。ベニマルの妹であるシュナには生まれてくる子供のお世話係になってもらおう。シュナにしてみれば、姪っ子だか甥っ子だかになるのだから、流石に嫌とは言われまい。あと周辺諸国にも伝えておかないと怒られるような気がする。既にガゼルがガミガミと苦情を訴える姿が目に浮かぶようだが、それらは全て後回しだ。
「この前はごめん。酷いこと言っちまった」
 抱きしめ返せば、ベニマルはより強く抱きしめてくれた。ますます情けないではないか。感情に振り回されて、八つ当たりして、それを許してもらっている。穴があったら入りたいが、それでも今リムルを包むこの優しい男を誰かに奪われたくなかったのだ。
「構いません。リムル様をあんなふうにさせてしまったのは俺の方だ。俺こそ、本当に申し訳なかった」
 ベニマルがしゃがんでリムルと目線を合わせる。真正面から見つめるベニマルの顔は慈愛に満ちている。本当に懐の深い男である。頬を撫でられると気持ちよさに擽ったくて目を閉じた。魔力感知で分かる、ベニマルはリムルの額にキスをした。
「あそこまで怒ると思わなかった」
「ばぁか。当たり前だろーが。他の女を抱いて愛して子供作りますなんて事になったら、お前のご立派なモンを引きちぎってお前に食わせるところだった」
「そんなこと言うなよ! 想像しちまったじゃねえか!」
「アホ! 俺がどれだけムカついたか! スライムに子供はできねえんだぞ!」
「でも、今はいるんだよな」
「……そうだよ」
 一度唇を重ねて、ベニマルの手がリムルの腹に触れた。擦った所で何も分からないだろう。子宮に子供が宿っているわけではなく、リムルの体内の亜空間に存在している状態なので、腹が膨らむこともない。
 撫でられている内に気分が高ぶってきて、何だかもどかしく思い始めた頃、ベニマルも興奮した目でこちらを見ていたから、二人は閨に移動した。
 リムルの着けた貞操帯はベニマルの大きな性器をきちんと拘束している。ベニマルが浮気するわけないのに馬鹿なことをしたものだ。解錠し、ベニマルのものが出てくるとリムルはその先端に口付けてやった。今なら出来そうな気がするのだ。ベニマルは慌ててリムルを止めようとしていたが、リムルはベニマルのものを口に含んだ。やり方は分かっている。頭を動かして口から出し入れしていると、段々と先走りが分泌されているのが分かる。味は不味いが、これは男側のロマンなので、ベニマルを労るためにも多少は目を瞑ろう。袋の方もさわさわと触ってやると、ベニマルが分かりやすく動揺して息を荒くしはじめた。魔物は大体我慢や自制をあまりしないものなので、こんな時は本当に本能と欲望のまま奔放に振る舞う。だから、ベニマルが到頭リムルを抱き上げて、激しいキスをしてくるのもある程度予想していたことだ。
 ベニマルの指がリムルの股を探り、穴に侵入してくる。それをスイッチに、リムルは各種の耐性や無効スキルをオフにする。快感を制限させるものは全て外し、ただただ、ベニマルの激情を受け止める。巧みな指使いとキスの喜びでリムルは理性を放棄した。
 あとはもう互いの歓喜と悦楽に浸り、傷ついた分だけ愛し合うだけだ。
 少しの隙間も許せないほど抱き合い、怒りの激しさと悲しみの重さを吹き飛ばすように求め合う。好きで好きで堪らない。何度も何度もキスを重ね合い、溢れ出る精液を際限なく吸収し、その角の先から足の爪先まで愛して、マーキングして、自分の物だと教え込む。
 ベニマルの名を繰り返し呼んで、快楽によがり、満たされて尚、更に高みを目指す。そうして、頂点に至り、幸福を知り、法悦を味わいつくす。
 二人は限界などないことをいいことに、心ゆくまで抱き合って、漸く和解したのであった。
 ベニマルのものがリムルの中から出ていくのを名残惜しみつつ、二人は並んで横になる。最近はいつも以上に忙しく、そもそも二人きりになれる時間が少なかったので、仲直りの意味以上に人肌が恋しかったからか、満足したのにまだ手を握ったり、互いの体に触れ合っている。
 この逞しい体に翻弄されるのを楽しみに思うようになったのは本当に予想外だ。勿論未だにおっぱいは大好きである。そういえば男の乳首って感じるものなのかな、と過去のコレクションを思い出しながら考え始めた時、ベニマルがもそっと問題発言を呟いた。
「二人目も可能なのか?」
「待て待て待て待て、お前、まだ一人目すら出てきてねえのに何言ってんの?」
「いや、ふと思っただけだ」
「スキルとして獲得したから、何度でも生命現象を起こすのは可能だろうけど、待てよ、マジで。大体お前進化したんだから子供いらねえじゃん」
「だが、遺伝子データさえあれば、聖受胎は使えるんだろ?」
「やだね! こんな小っ恥ずかしいことは一度で充分! それにお前の魔素量が減って弱体化されるのも困るし。試さねえからな!」
 今回は喫緊の課題だったから、リムルも無意識でスキルを行使したが、絶対に二度と使わないと決めた。何度も何度も孕んでたまるものか。ベニマルが少し残念そうにしていたが、今は先ず生まれてくる子供のことを考えてほしい。
 そして過去に聞いた話と現状がリンクした。多分これだ、会社の既婚同期が子供が生まれた後に夫婦仲が険悪になったのはこの感覚の違いだ。お前は生まれてくるの待つだけだからお気楽だろうけど、こっちは命を体内で預かってるんだぜ! と散々説教してベニマルの第二子に対する密かな野望を根絶した。子育てしながらもう一人生むなんてリムルには考えられない。せめて自分の母親という最強装備を用意できるのなら話は違ったかもしれないが、現在、リムルの周囲には経産婦はいないので、育児は手探りになるのだから、余計混乱するような家族計画は却下なのである。
 翌日、ベニマルとリムルの間に子供ができたと皆に伝えると魔物連邦国のみならずジュラの大森林及び西側諸国、ドワルゴン、サリオン、八星魔王などを巻き込んで大混乱に陥らせることとなった。
 案の定、自国の幹部と周辺諸国からのクレームが相次ぎ、リムルは精神的にヘトヘトになりながら、153日を過ごしたのであった。