食む

 その端正で生真面目でどこか危うい顔が少しばかりの期待を見せる瞬間を逃したことはない。そわりとこちらを伺う様子を捉えたら、その顔に近付く。こちらを見たくせに目を逸らし伏せたなら、それは合図だ。
 唇を重ね、小さく音を立てながら食む。目を瞑って恐る恐る口を開けたら、するりとその隙間から舌を入れてやる。
 腰に手を回し、持ち上げて膝に乗せると向こうも漸く覚悟してこちらの舌の動きに合わせるようになる。逃げられないという言い訳を与えてやらねば満足に欲を表に出せない捻くれた性格が愚かで愛おしい。
 くちゅくちゅとわざと水音を響かせると恥ずかしさでもぞもぞと動くので、太腿を撫で回し、この先の行為を意識させるように腰を揺らしてやる。服越しでも欲望が募り、少しずつ理性の皮を剥いでいるのが分かる。むき出しにするにはより深く口の中を侵さねばなるまい。
 両手で小さな顔を覆い、耳を塞いだ。逃げられないという言い訳を重ねさせることで欲は歪み、こびりつき、やがては消えないシミのように忘れられなくなる。顔を固定されてるからと言い訳をさせながら、その口の中で行われている卑猥な動きの音を耳を塞いで閉じ込める。己の体内の音以外を遮断され、自分の発する嬌声と唾液が混ざる音だけが世界になる。
 どこに行くか迷っていた腕がこちらの首に回ったら、あとは好きに貪っても良いということだ。
 押し倒せば流石に目を開くが、視界には宿儺しかいない。両面宿儺だけが世界にいる。他の何も見えない。その光景を何度も見せてやることで、一体誰のものなのかを刷り込んだ。
 押し倒した体から力が抜け、代わりに足がそろりとこちらの足を撫でる。今夜はこのまま最後まで突き抜ける。唇の奥を絶えず犯されながら、腹の中を暴いてほしいのだろう。その快楽を教え込んだのは他の誰でもない、宿儺だ。
 自己を愛することのない、生真面目で不器用で愚かな少年に唯一無二の執着を見せ続けたお蔭で、この少年は両面宿儺にあらゆることを求めるようになった。
 己で愛せない代わりを果たせと求めるくせに羞恥心が邪魔をしている。そのストッパーを外し、縮こまりながらも主張している欲を拾い上げ、解剖してやり、際限なく与えてやる。乾いた土地に水を与えてもすぐに飲み干し乾いてしまうが、それでも与え続けるのが大事だ。
 伏黒恵は両面宿儺を求めるようになった。終わらない口付けは呼吸を妨げるからこそ気持ちが良い。生と死を交互に与える行為への期待を、この少年は宿儺にだけ見せる。
 その期待は両面宿儺の舌の上で転がり、飲み込まれ、やがては食い尽くされるのだ。