目が覚めた瞬間、長年の友人の顔がドアップで視界に映ったら誰だって混乱するのではないか。
寝起きが悪い恵はなおさら混乱した。精度の低い認識ゆえの「なんだこれ」から、頭が働き始めて再度認識し直したゆえの「どうして」まで疑問がシフトするのに一秒以上必要だった。目が覚めて直ぐに頭が働かないことは多々あるが、今回はいつもより状況把握までに時間がかかった。
しかもあらぬところに違和感があり、知らない匂いが鼻を刺激したことで混乱は加速した。
「は……? えっ、あ?! ぅン?!」
「気が付いたか」
それは目が覚めたことと同時に二人の状況についての言葉だったようだ。下半身――正確に言えば尻穴が変になっているし、腹の中に違和感がある。それだけならまだしも、恵の陰茎は痛いほど反り立っていてすぐにでも射精しそうな状況だった。
仰向けで宿儺の肩に足を引っ掛けるくらい体を密接にした上でこんな状況なのはおかしい。
宿儺が意識のない恵をレイプするとは思えなかったが、今まさにそんな状況で、恵は血の気が引いた。確かに少々距離も近いしスキンシップが多いとは思っていたがまさか。
「横を見ろ、伏黒恵」
険しくなる恵の表情を見て、珍しく少々焦った声で宿儺が促した。その珍しさ故に、恵は渋々横に顔を倒す。
「【三回中出しするまで抜けません】……? んだよこれ」
「俺が覚醒したのはお前より一分ほど前のことだが、その時点でこの体勢だった」
それから、と宿儺が動いた。腹の中のものがズルリと抜ける排泄感に似た感覚に震えていたら、途中で止まった。
「俺の陰茎がお前の尻から抜けん」
「何言ってんだ、ふざけてんじゃねえぞ」
「お前も試せ」
宿儺に抱きあげられて姿勢を変え、二人は繋がったまま座位で向き合う。姿勢を変える際に腹の中に入ってきた宿儺の陰茎が太くて、刺激に震えたが、今はそんな場合ではないのだ。
宿儺の肩に掛けられていた足が降ろされ、ベッドに乗る。
そこで漸く二人が今いる場所を見ることができた。
ビジネスホテルよりも無愛想な程シンプルな十二畳程度の部屋には、ベッドの他に冷蔵庫とキッチン、部屋の隅にシャワーヘッドと猫足バスタブ、大きな姿見と、トイレが置かれていた。
その反対側に先程の文字と扉がある。
宿儺の部屋ではないことはすぐに分かっていた。宿儺の部屋は大量の本による紙とインクの匂いで満ちているし、猫足バスタブなんてものを好いておらず、こだわりの風呂場をデザインさせた注文住宅だ。
何度も訪ねているし、泊まったこともあるから、間取りも知っている。こんな部屋はなかった。
「俺たちは誘拐されてこんなところにいると?」
「そうらしい」
「お前が油断することなんてあるのか」
夜中にもかかわらず、不審者が侵入してきた音で目覚め、すぐに撃退したような男が誘拐されることなんてあり得るのか。
「俺も所詮人間だからな」
ゆっくりと宿儺の陰茎を抜くように腰を上げさせられるが、ある地点でそれ以上抜くことができなかった。引っかかって抜けないような感覚に驚く。
「ちょうど俺の雁首で抜けなくなっている」
見ろ、と促され恐る恐る疑問に満ちた陰茎と尻穴の状況を見る。恵の尻穴を広げるように太く長い宿儺の陰茎が刺さったまま、どうしても抜けない。どれだけ引っ張り上げても、宿儺の陰茎を掴んで抜こうとしても、宿儺の言う通り雁首のところで固定されたように抜けない。
状況が理解できず、宿儺の顔を見る。
「尻に異物を入れ抜けなくなった事例は多く報告されているが、この状況は当てはまらんだろう」
宿儺がゆっくりと恵の腰を下ろさせる。ずっぽりと宿儺の陰茎を飲み込み、恵の会陰に宿儺の陰毛が触れている。
「大抵は肛門括約筋が固まり、抜くことも動かすこともできん状態が多いが俺達は動かすことが可能だ。ただ抜けないだけでな」
宿儺によって、少しずつテンポが早くなり、リズムよく腰を上下に動かされる。いやいや待て待て、と恵は宿儺の頬を掴んで止めさせた。
「ドア! あのドアから出られるだろ」
「全裸で性交したまま外に出たいなら止めんが」
うっ、と恵は怯んだ。性交しているようにしか見えないまま外に出るのは確かに嫌だが、しかし、抜けない理屈もわからないまま、見知らぬ誰かによって用意された文言に従い、高校からの長い付き合いがある友人の精液を腹で受け止めるのもどうかと思う。
最悪の選択のうち、どちらが比較的マシなのかを考える。
「お前、早漏か?」
「これほどまでに不躾で屈辱的な問いをお前にされるとは」
「早く出たいだろ! 答えろ」
「勃起不全だ。知らん」
ここまで絶望的な気持ちになったのは就職先がなかなか決まらなかったときくらいだ。
いや、それより酷い。下らなすぎる。
こんな下らないことでショックを受けなければならない状況が酷すぎる。
「治療は?!」
「必要性がなかった。その他何らかの病が認められなかったからな」
「治しとけよ……」
それではこのまま、宿儺に挿入された状態で外に出るしかないのではないか。
いやでも、待てよと恵は腰を上げて宿儺の陰茎を掴む。どう考えても勃起してない硬さではない。完全に勃起しているとも言えないが、不全ではないではないか。
「勃ってる」
「お前の括約筋に扱かれたからな」
「………………………出せるか?」
「お前に受け止める覚悟があるなら」
覚悟なんて言ってられる場合ではないのだが、宿儺は存外真剣な目で見てくる。本気ではない言葉を宿儺は口にしない。冗談めかすこともあるが、嘘をつかない男だ。本気で恵の覚悟を問うているのだろう。
「やれ。ここから出るためだ」
恵が睨むと、宿儺は口角を上げた。
「仰せのままに」
男性器は基本的に単純だ。大抵は性的に興奮するか、或いは刺激を与えることによって勃起する。性的興奮を得るための過程で繊細な心情が反映される人間もいるが、宿儺はその過程において特に繊細さを求めないようで、恵を押し倒すと作業的に腰を振り始めた。
抜けないことを利用してか、かなり後ろに下がったあとにググッと恵の中に入ってくる。その速度は一定であり、早くも遅くもない。
恵は恋人を持ったことがなく、性行為と呼べるものは初めて行うが、これで宿儺が射精に至るとは到底思えなかった。恵の様子を観察しながら体を動かす宿儺に興奮は見られない。とても冷静に実行されているため、恵も冷静になってしまう。勃起していたはずの恵の陰茎も既に大人しく垂れている。
実際、腹の中のある点を掠めると痺れるような感覚が響いているのに、眼の前の男の顔を見るとしらけるというか、現実的な心配が頭をよぎるだけだ。
このまま宿儺が射精できなかったら恥を忍んで外に出るべきか。この調子で本当に射精に至るのか。考えても答えが出ない。そういった心配が脳裏をよぎると、今まで知りえなかった感覚に酔うよりも状況の奇妙さに気持ちが悪くなってくる。
「い、いった、ん、止まれ!」
宿儺の肩を掴んで剥がそうとすると案外素直に応じてくれた。
「なんか…なんか違う……」
「なんかとは何だ」
「知るかよ……とりあえず休憩するぞ……」
宿儺は仕方ないなと言わんばかりの態度だったが、二人向かい合うように横になってくれた。
体を離せないため至近距離で宿儺を見つめる。宿儺の厳つい顔もパーツで見れば案外華やかな要素を持っていることに初めて気付いた。
まず、恵のようにからかわれるほどではないが、睫毛がしっかりと長く生えている。下向きに伸びているからか、顔全体を見ているときには目立たないようだったが、近い距離ではその豊かさを知る。
女性とは違うものの、肌もなめらかで小汚くない。俳優のような体調管理でもしているのかと問いたくなる。
何より、これほどの距離で初めて宿儺の虹彩を見た。少し明るい銅色をしているのは知っていたが、瞳孔近くがひときわ明るく、外側に向けて赤くなるグラデーションとは思っていなかった。
「どうかしたか」
「……お前が何に興奮するのか考えていた」
「そんなものはない」
「捻り出せ。性的なものに関する興味はないのか」
「思い当たらん。そういうお前は何かあるのか」
「いや……ないな」
性的なものは周りから排除してきた。父親のだらしない下半身と血の繋がらない姉の存在により、潔癖を通り越した無関心の状態に至ったのだ。
女性にも男性にも興味が湧かなかったし、恋人がいなくて困ったことはない。友人達はそんな恵に無理矢理誰かを充てがおうともしなかったし、誰かいい人いないのなんてセクハラもしてこなかった。
だから、恵こそ性的な興奮をするような対象がない。生理的反応を見せる陰茎を無心で扱いて放出してきたのに、今更何かある筈がない。
「心理的刺激で興奮させることが不可能ならば、身体的刺激しかあるまい」
「お前の白けたツラ見てると身体的に刺激してもこっちがしんどいんだよ」
「ツラは生まれつきだ。……ふむ、腰を動かすだけでは無意味ならばスキンシップはどうだ」
「試すか」
スキンシップは相手の不安やストレスを軽減させる効果があると言われている。緊張を緩めるとも言えるならば今の白けた空気も少しは和らぐかもしれない。
宿儺の手が恵の体を軽く撫ぜる。恵も同じ様にし返す。全身が筋肉の鎧のような男の腕に触れるのは初めてだ。ゆっくりとそれらしいように動くと、多少はマシな気分になった。つうっと二の腕の血管を辿るように撫ぜると宿儺がふと笑った気配がしたが、目では確認できなかった。
前に手を持ってきて、大胸筋やら腹直筋あたりに触れる。父親も鍛えられた体をしていたが、宿儺とは肉の付き方が違うような気がする。
それにしても肌艶が良い。しっとりとしていい香りがする肌に鼻を寄せる。この男は他人に興味がなく自分の満足することにしか注力しないと知っていたがまさかこんなにしっかり肌の手入れをしているとは。恵はそこまで気にかけていない。
関心していると、宿儺も恵の背中だけでなく胸部や腹部に触れる。触れるか触れないか程度の擽るような触り方をされて、身を捩ってしまう。その反応を楽しまれているのは分かっているから我慢したかったが、妙な感覚を呼び起こすような触り方に勝てそうにない。
その内、宿儺は恵の陰茎にも同じように触れた。少しばかり反応していたそれを弄ばれると我慢できなくなる。いつの間にか陰茎全体を握り込まれ、扱かれてしまい、あっけなく達してしまった。流れ出た精液を宿儺はじっと見つめている。
出して冷静になりスッキリした恵は、周到に用意されていたベッドサイドのティッシュで宿儺の手を拭う。
「スキンシップにしてはやりすぎだろ」
「色々試さなければならんからな、中出しを三回果たすために」
耳元で卑猥なことを囁かれる不快感というのはどうしようもない。その内容が事実であることにも頭を抱える。
「お前が出さなきゃ意味ねえだろ。俺に構うな」
「お前の痴態で俺が興奮するかもしれん」
これはあれだ、宿儺のいつものからかいモードが発動したらしい。偶にこうして恵で遊ぼうとするが、しつこくはないので適当にあしらっている。同じネタで何度も絡んでくるというようなウザいこともしないから、ハイハイと流しておくのが常だ。
「そんないい加減な理由で俺まで疲れさせんじゃねえよ」
溜息をついた途端、恵はひっと小さな悲鳴を上げた。脇腹を撫でられたのだ。しかも軽く触れるか触れないか程度で、思わず身を捩りたくなるようなくすぐりをされた。
「いい加減だと思うか」
宿儺は随分と楽しそうだった。こういう顔は偶にしか見ない。手応え歯応えある何かを見つけたときにはケラケラ笑いながらそれに熱中する。そうでないときのほうが基本多いので、宿儺は大抵無愛想でテンションが低い。
「まあいい、色々試すしかないからな。俺もお前もこういうことには疎い」
耳輪を舐められてびくりと体を震わせてしまった。
「俺が三回の絶頂に至るまで付き合えよ、伏黒恵」
それから三回、恵は達したが宿儺の陰茎は相変わらず恵の腹の中で柔らかいままであった。出し損だと恵が訴えても気にしていない。
そのうち飯が食いたいと言い出したのだが、移動が問題となった。
冷蔵庫とキッチンがある場所はベッドの真横ではない。部屋の対角線上にあり、一歩を八十センチとした場合、七歩程度の距離だ。だが、宿儺の陰茎が恵の尻から抜けないせいで大変遠く感じる。
宿儺の身長は二メートル近く、腰の位置も高い。対する恵は宿儺より十センチは身長が低いので、当然宿儺よりも腰の位置が低い。普通に歩行するのは不可能だ。宿儺の腰位置に合わせれば恵が歩行できず、恵の腰位置に合わせれば宿儺の膝に負担がかかるだろう。
「簡単だ、お前の足を俺が抱えて歩けばいい」
説明を聞いた途端恵は食い気味に「却下」と言い放った。
「ならば俺にしがみつくか?」
「いや、待て。そもそも何かを飲み食いするのはやめておこう」
「何故だ?」
「排泄の問題があるだろうが!」
今、恵の肛門の奥、腸内には宿儺の陰茎が入っているわけだから、互いの排泄時に問題が生じる。また、恵の陰茎と宿儺の肛門は塞がっていないものの、どう考えても今の状況で互いが安心して排泄できるはずもない。臭いや羞恥心、衛生などの問題を考えて、絶対に嫌だと恵は主張した。
「些事だ」
「んなわけねえだろ、殴るぞ」
「ではお前が付き合え」
宿儺は恵の首筋を舐め始めた。宿儺は美食家ではあるが同時に喫煙者のように口が淋しいという理由でこまめに菓子類なども摂取している。
今も腹が減ったというより何かを口にしたかっただけなのだろう。
人の肌を舐めたところで美味くもないと思うが、宿儺は丹念に舌で恵の肌を舐める。肌が濡れる不愉快な感覚よりも、排泄の問題が伴う食事を我慢してもらうべきだと判断して、何も言わずに受け入れる。
その内、下に移動していった宿儺が口にしたのは恵の乳首だった。唇で触られたとき、背中にゾクッと何かが走ったが、可能な限り無視する。こういう状況下で何かしらのリアクションを返せば宿儺を喜ばせるだけだ。
ふにふにと唇で食んだ後、舌先でクニクニと乳首を捏ねられる。左乳首だけを上下左右に弄ばれるもどかしさに腰が引けそうになったら、すかさず宿儺が右側も手で摘み始めた。
舌と指先で捏ね繰り回される感覚は未知のものだった。自慰による感覚は陰茎全体から得られるが、乳首というごく限られた部分のみから得られるものは刺激が強い。胸部全体を揉まれたならばまだ耐えやすかったのではないかと思うほどに一点集中され、恵は必死に唇を噛んで声が出ることも、腰が揺れそうになるのも耐えなければならなかった。
宿儺はまだ足りないのか、舌先だけではなく舌全体で恵の少し硬くなった乳首を舐め回している。飴を舐めるときのように舌中での感覚を楽しみたいのか、舌を出して執拗に弄ばれるのは恥ずかしかった。この男の悦楽に耽る姿を垣間見ているのも、自分がその行為により心情と異なる状況に陥っているのも恥ずかしい。
突然、きゅっと右乳首を親指と中指で少し引っ張られたと同時に、左乳首を甘噛みされた。瞬間、「あっ…」と小さく声が漏れてしまい、見ないようにしていた恵の性器からびゅるっと精液が漏れた。
また恵の出し損かと思いきや、腹の中の感覚が先程とは異なっているのに気付いた。なんとなくでしかないが、少し硬くなったような。
「なるほど、俺は舌の感覚で多少ばかり興奮するらしいぞ」
ぐいっと腰を押し付けながら、宿儺が喜んだ。
「お前の肌は中々美味い」
「食人趣味みたいなこと言うな」
射精したことでまた冷めてしまった恵と違い、宿儺は徐々に興奮を高めているらしい。スロースターターにもほどがある。その間、恵は何回射精して冷静さを取り戻しながらこの茶番に付き合わねばならないのか。
「お前の指を食わせろ」
「言い方」
この男は時々こうしてわざと怯えさせるようなことを言う。恵が引いているのが面白いらしい。性格に難ありな男だが、友人としては別に問題ないから気にしていなかったのに、今ここで面倒くさいことになろうとは。
「色々試さねば俺は射精に至らん。ずっとこの状態でいたいなら別に構わんが」
「……くそ、」
右手の人差し指を差し出せば、宿儺はぱくりと口にした。恵の指を舌全体で感じようと蠢く感覚が指から伝わる。どうしてこんなに躊躇いもなく人の指を舐めるのか、宿儺の感覚が分からないが、腹の中のものは順調に硬くなっている。本当に舌の感覚で興奮するらしい。好奇心が疼いて、爪の表面で可能な限り優しく口蓋を触ったら、宿儺が驚いたように恵を見た。だが、その驚きの顔は一瞬で立ち消え、すぐさまいつもの余裕が滲み出る顔に戻り、より執拗かつ丹念に、舌だけでなく口の中のものすべてで恵の指を堪能し始めた。
子猫や子犬が指先を吸うのとは違い、下半身へと繫がる快感のために指の根元まで口の中に含んでいる宿儺をどんな顔で見ればいいのかわからない。
友達同士で性的な接触をする連中もいるとは耳にしたことはあるが、宿儺と恵の間にはそんなことは一度もなかった。何に興奮し、何に快楽を感じるのかなど、互いに話題にしたこともないし、勿論そんな空気を感じ取ったことはない。
その相手が自分の指をしゃぶりながら快楽を得ようとしている。指が濡れる感覚は気持ち悪いのに、抜き出すこともできない。
これはどうすればと混乱している内に、宿儺の手が恵の乳首をそれぞれ弄び始めた。先程とは違い最初から少し強めの力で摘まれ、時に爪先でツンツンと突かれ、乳首の先端を穿られる。
いきなり始まった行為を止めることもできないまま、恵の感覚が揺らいでいく。腹のものは固く太くなっていき、恵はそれを締め付けながら、自らの陰茎がまた絶頂に近付いているのを感じた。
自慰をするときにはここまで簡単に何度も上り詰めなかった。一度出してしまえばスッキリしたし、その後さっさと片付けて寝てしまっていたから、何回も射精することはなかったのだ。
こんなに簡単に男の体は快楽に流されるものなのかと余所事のように思う。意思を伴わずとも体に刺激を受ければ反応する単純な構造が憎らしい。
恵がまた腰を震わせて射精すると、宿儺は恵の右手首を掴んで、口に含んでいる指を動かし始めた。まるで性行為そのもののように、指を自らの口から出し入れする様子は卑猥だ。その卑猥な行為をこれからやらねばならない。しかも、宿儺が三回射精するまで。
恵の右手首を掴む左手と異なり、自由な宿儺の右手が恵の尻周りを撫でる。触れるか触れないか程度のもどかしい接触に腰を前に逃がすと、恵の陰茎が宿儺の腹に当る。その気不味さに腰を何処かに逃がそうとして何度か翻弄されるうちに、宿儺の誘導で腰を前後に振る羽目になった。
ぎこちないながらも、指を舐められたまま腰を振る行為を継続すれば、宿儺の陰茎がまた大きくなった。このまま射精に至れ、そうすれば早く出られる。
だが、なかなかそれ以上に至れない。足りないのだろうか。何が? と考えてたどり着いた結論に、恵は判断しかねた。
いや、それは。流石に、という戸惑いと腹を括らねばこんなところでの滞在時間が伸びるだけだという現実的な問題がせめぎあい、最終的に後者が勝った。
宿儺、と呼びかければ少しギラついた目が恵を見た。快楽に浸ろうとしているところを邪魔したと思っているのか。
「こっちだ」
恵は羞恥心を抑え込んで、口を大きく開け、舌を出す。喉の奥まで見せつけるようにしたら、宿儺は指から口を離し、「では遠慮なく」とすぐに恵の差し出した舌にむしゃぶりついた。
恵の舌を弄びながら舌全体での刺激を楽しむ宿儺の興奮は、すぐさま陰茎に伝わり、その内、恵の腰を前後だけでなく上下で揺らし始めた。
こんなに揺さぶられていたら少しくらい痛くなったり吐き気がしそうなものなのに、今のところそんな予兆もなく、恵も未知なる感覚に溺れ始めていた。
宿儺が興奮する材料を見つけたのだから利用しなければならない。このまま三回連続で出してくれたならば、早くこの状況から解放されるのではないかと期待して、恵は口の中の宿儺に絡みつく。姿勢が不安定になってきたので縋り付くように首に腕を回し、腰だけを宿儺の自由にさせてやったら、分かりやすく更に行為が激しくなっていく。
射精しろ、さっさと出せと腹を締めると、口の中と腹の中に宿儺がより深く押し入ってきた。窒息と圧迫の苦しみと少しばかりの甘い感覚とともに、腹の中に何かが広がった。
「おお、一回目を果たしたな」
フーフーと息を乱す恵と違い、宿儺は余裕が残っている様子でほとんど久しぶりであろう射精を面白がっている。
抜けるかどうかを試したが、やはり雁首のところで引っ掛かって抜くことはできなかった。
「三回目に抜けるかどうか楽しみだ」
「抜けなきゃお前のそれ、切るぞ。断面さえ綺麗なら指だってくっつくんだ、なんとでもなるだろ」
「酷いことを言う、お陰で萎えてしまった」
射精したばかりのくせにいけしゃあしゃあと言う宿儺の鼻をつまんでやる。
この方法で残り二回を乗り切るしかないのかと考えるだけでうんざりする。
他人に口の中を弄られる感覚を何と言い表すべきなのか。確かに何かを引き出されたから、恵も射精に至ったのだろう。こういう感覚に不慣れで我慢の仕方も分からないまま身を委ねてしまっている。
かなり危うい橋を渡っている自覚がある。これを渡り切る前に早くこの奇妙な空間から出なければならない。ここから出るのが先か、渡り切ってしまうのが先か。
「おい、風呂に入るぞ」
「は?」
宿儺の声でとめどない思考から現実に引き戻される。
「お前の出したものが掛かったのでな」
「えっ、わ…っ!」
許しもなしに宿儺が恵の尻をガッツリ掴んで固定して立ち上がった。咄嗟に太くて揺るがないその腰に脚を、首に腕を回してしがみつく。
「あ、うッ……ん…ぁ…」
一歩ずつ進むたびに刺激が体に走る。抗議したいのに頭の中で言葉が形になる前に腹からの刺激で霧散する。
宿儺に不似合いな猫足バスタブの中で腰を落ち着けた頃にはまた宿儺の腹筋が汚れていたが、気にすることなく蛇口をひねり湯を出し始めた。
少しずつ溜まっていく湯の温かさにぞくりとしながら、恵は眼の前の男の頬をつねる。こんな子供っぽい抗議をしたくなるほどに怒っている。
「いきなり動いてんじゃ――んぅッ!」
恵の小言を遮るように強く口付けられる。というより、宿儺は口の中の刺激が足りないから口づけを求めているだけなのだろう。湯を背中に繰り返し掛けられながらそれに応える。早く出してもらうための協力であって、それ以上の意味を持たない。
暫くすると宿儺が恵の腰を上げ下げし始めた。いつの間にか蛇口は止められていたが、たっぷりと溜められた湯がチャプチャプと恵の動きに合わせて揺れ始める。
ベッドでの行いとは違い最小限の動きで宿儺の陰茎を刺激している中、少しずつ湯が恵の尻穴に入ってきているのが気になる。それはそうだ、湯の中でこんなことをすれば入り込むに決まっている。
湯の温度などで痛むかと恐れたが、寧ろ何故だか興奮が更に高まって行為に耽っていく。宿儺が恵の尻穴のふちに指で触れる頃には何度も恵だけが達して疲れ果てていた。
口づけのせいで酸欠だし、湯の中で運動してるし、頭がくらくらする。その内ふわっと意識を手放し、恵は深い闇の中に落ちた。
目が覚めてまだ宿儺が至近距離にいる事に気付き、何とも言えない気持ちになった。いる、という事実への何故かポジティブな驚きがあり、同時にまだこの部屋の中なのかと非常に残念な気持ちが発生した。方向性の違う驚きが同程度に起きるとこんなに困るものなのか。
今の恵達はバスタブからベッドへと戻っており、向い合せで横になっていた。宿儺は眠っていなかったようで恵が身動ぎするとすぐに反応してくれた。
「悪い……」
「気にするな。お前のほうが負担が大きいのだろう」
「どれくらい経った?」
「三時間といったところか? 時間経過が分かるものが何もないのでな。正確ではない」
「そうか……。そういや、風呂場では中に出せたのか、お前」
「いいや。抱いている相手が意識を失ったらそんな気分は霧散するものだろう?」
気分は悪くないかと頬を撫でられて居心地が悪くなる。あの時恵が意識を失わなければ無事に中に出せたのかもしれないのに。恐らくこの様子では恵が気を失っていた間、宿儺はただ待つだけだったのだろう。
申し訳ない気持ちで口付ける。ごめんと謝っても宿儺は受け取らないだろうから、今できる宿儺が喜ぶことで返すしかない。
唇を窄めて宿儺の唇に触れると、三度目ほどで宿儺が口を開けた。その奥にある舌が迎え入れてくれたので、恵も舌を出して応える。味蕾を刺激するようにねっとりと舌を絡めるのが好きらしい。明らかにテンションが上った宿儺により、深く更に複雑に絡めていく。前のめりになっていく宿儺のせいで顔を上向きに傾けると唾液が口の端からだらりと零れる。
「見ての通りだ。回復した」
腕で顎を雑に拭った恵の額に軽く口づける。
「それはなによりだ」
ならば、と宿儺が俄に体勢を変えて向き合う形から、背中を見せる形へと変えた。そのまま恵の膝裏をしっかり掴んで身を起こし、立ち上がった。
「えっ、あんン゙゛?!」
「少し俺の実験に付き合え」
歩き始めた宿儺を止める事もできず、しかし前にしがみつけるものもなく、膝裏と宿儺の陰茎以外に宙に浮く恵の体を支えるものはない。必死に後ろに手を伸ばして宿儺の首に手を伸ばしたが手が届かなくて不安で仕方がなかった。
宿儺が足を止めたのは大きな姿見の前だった。
その前に座り込むと、宿儺は恵の脚を自身の膝に引っ掛けたまま大きく開脚する。
「えっ、おい、待て待て待て…嘘だろ」
鏡の中には宿儺の陰茎を咥え込む恵の尻穴がはっきり写っていた。黒い陰毛の中にずっぽりと刺さっている太く生々しい肉色の棒をまともに見てしまって、恵は気を失いたくなった。
確かに抜けないことを確認したときに見たといえば見たが、鏡像で見るのはまた違う。
「舌の刺激だけだなく、お前の痴態にも俺は興奮するらしいが、我を忘れてお前を貪るつもりはない。しかしベッドだと夢中になってしまうようだからな、鏡の前ならば視野が狭くなることもなく、お前を見ることができる」
「だからって…! こんな……」
「あと二回中に出さねばお前も俺もずっとこのままだぞ」
それでいいのか、と囁かれると強く出れないが、およそ友人関係でこんなことまですることはありえないのだ。戸惑う恵の方が正しい筈なのに、宿儺は堂々としている。恵の羞恥心が通じるとは思わない。
「恵、しっかり励めよ。お前の快楽に震える声、感情が隠せなくなった顔、素直な陰部の全てに期待している」
「てめぇ……、くそっ、」
「理解したようで何より。早速だが今、お前は括約筋を締めることができるか」
ここだ、と尻穴の縁を撫でられる。それに驚いてギュッと締め付けると、良い反応だなと返された。
「ここを何度も締めるのと緩めるのを繰り返せ」
「お前が見てる前でか?!」
「他にあるのか、お前の腹の中に俺の精液をぶちまけるための方法が?」
そんなものはない。ある筈もない。理屈は理解しても心情が追いつかない。こんなところを意識するなんて排泄の時だけだ。他人に見せるものではない。
「ほら、やってみろ。何かしなければ無為に時間が過ぎるだけだぞ」
「ひあっ!」
背後から耳を舐められ、乳首をキュッと抓られた。
「その調子だ、ほら、腹に力を入れろ」
宿儺の声に促され、渋々括約筋を緩めたり締めたりし始める。既に宿儺の太い陰茎が埋まっているからその動きは分かり辛いが、確かに恵の尻穴はまるでもぐもぐと咀嚼するような動きを見せる。
恥ずかしい。こんなのは友人の前で見せるものではない。
だが、一定のリズムで指示を出されながら乳首を抓られる内に妙な感覚がじわじわと尻穴から広がってくる。先程何度か射精した時とも違う感覚が堪らなくて、恵は無意識に自分の陰茎を擦り始めていた。
「んぁっ…ぅ……は……ゃ…」
誰にも見せるべきではないところを親しき友に見られる背徳感と羞恥心はやがて得も言われぬ快楽へと変化していく。
宿儺に凭れて目を瞑り、背を丸めて尻穴と陰茎から広がる感覚に集中する。
次第に宿儺の声が聞こえなくなっても恵は尻穴をくぱくぱと動かしていた。宿儺の手が恵の胸部や腹部を撫で回す。大きな熱い手に触れられると気持ちが良くてもっとと強請りたくなる。
その内、恵の陰茎を握る手をそっと外され、宿儺に主導権を奪われた。鈴口をむにむにと人差し指の腹で弄られ、親指と中指で雁首をさわさわと触られる。
「ひ…な、んで……!」
「お前の自慰も慎ましくて良かったが物足りん」
先端を刺激するのと同時に、もう片方の手で竿を擦られる。その動きは恵が自身で触っていた時の比ではない。
「うっ、あっ! やめ、ひぅ――ああッ――!」
一際強く握り締められ、同時に雁首を擦られた瞬間、恵は射精とも違う感覚に悲鳴を上げた。これは違う、漏らす。いやだ――!
「手ぇ、はな――もれるっ、もれ――あああ!」
ぷしゅっと粘性のない液体が勢いよく放出される。漏らした。宿儺の前で。こんな理由の分からない状態で。自分自身が信じられなくて涙が出る。羞恥心よりも失望が強くて胸が痛い。こんなのない。いくらなんでも。
呆然としていたら、いきなり宿儺が恵の膝裏を抱えながら立ち上がった。
「えっ、ひぁっ、なに、なん、すくな…? ――うわっ!」
宿儺は無言のまま腰を振り始めた。鏡の中には完全に緩みきった尻穴にズボズボと太く膨張した陰茎が出入りする卑猥な様子が写っているが、そんなのを気にしていられなかった。振り落とされないか不安で膝裏を支える宿儺の腕を鷲掴みにするが、動きが激しくてまともに掴んでいられなかった。
宿儺の腰の動きに合わせて声が漏れる。先程胸を支配した失望や悲しみはどこかに消え去り、今は宿儺のことしか考えられない。
恐らく恵の溺れゆく姿を見て勃起したからこんな事になってるのだろうが、何も言わずに恵を貪る宿儺に余裕があるとは思えない。こんな様子は初めて見る。宿儺が余裕をなくすなんてありえないと思っていたが、性的なことは例外だったらしい。
一際強く穿たれた瞬間、恵は悲鳴を上げてまた勢いよく漏らした。液体は鏡を汚したが、同時に恵の尻穴からも液体が漏れているのが見えた。宿儺が中に出したのだ。
そのまま宿儺はベッドへ移動し、ティッシュで汚れを拭うと寝転がった。
「悪い。我を失った」
背中を向けたままなので宿儺の表情は見えないが、謝るようなセリフを聞くことは殆どない。髪を撫でる手の暖かさに誤魔化されそうになる。
宿儺が素直に謝るなんて滅多にないし、その滅多にない謝罪ですら全然悪いと思っていない態度であるから、こんなふうに触られると本当に悪かったと反省しているように感じてしまう。
「お前はいつでも俺から退屈を奪い楽しませてくれる……お前の痴態もまたそうだ。魅了されて夢中になる」
腹を撫でられながら言われて、ゾクゾクする。既にこの手が恵に快楽を与えると理解しているからこその反応だろう。
漏らしてしまった恵にすら宿儺は失望したり、蔑むことなく、寧ろ興奮するものとして受け入れたことは明白だった。それがどれだけ安心を齎したことか。
それに、あの一瞬の絶望を快楽へと塗り替えた行為を恵は「悪い」ものだと思いたくなかった。
体を捻らせ、恵は宿儺の唇を舐める。宿儺はすぐに恵の舌を受け入れ、絡もうとする動きに応えてくれた。唇をピッタリと重ねて、宿儺が満足するまで口で求める。体勢が苦しいのに、その苦しさで乱れる呼吸にすら二人共興奮している。
暫くして恵が体を震わせると、宿儺の口が離れた。
仰向けになって、体を起こし、繋がったまま向きを変える。二回も出されたからか、恵の尻からは宿儺の精液と陰茎が恵の直腸を掻き混ぜる、はしたない音がぐぢゅぐぢゅと漏れる。
横たわる宿儺を見下ろすように跨ると、色々なものが見える。その横暴さを体現するような目つきと、何ものも飲み込んでしまう大きな口、その下に繋がる太い首と逞しい体。いつもはただ羨むだけだったこの肉体を今は別の感情を持って眺めている。
ただの友人でしかないと、この状況に陥ってから何度も言い聞かせた。そうでなければ失ってしまいそうで怖かったのに、先程の粗相を宿儺が受け入れた事実をもって、漸くそのストッパーが外された。
何を見せても宿儺は受け入れるし、みっともない姿見せても興奮して我を忘れてくれるのなら、恵だって我を忘れても許されるだろう。この男に失望されないのならいい。友人という関係にこだわっていたわけではなく、ただこの男に見放されたくなくて友人関係を保とうとしただけだったと気付いた。
「そんなに言うなら目を逸らすなよ」
膝をついて腰を上げる。すっぽ抜けないことを利用してギリギリまで宿儺の陰茎を外に晒し、ゆっくりとまた飲み込んでいく。
同時に自分の陰茎を扱き、快楽を追う。体内の気持ちよくなるところを宿儺の亀頭で刺激するように上下に動くことへの羞恥心は消えた。宿儺にならこの滑稽な姿を見せてもいいと分かっているからだ。
「伏黒恵」
宿儺の呼びかけに応じて動きを止めると、膝ではなく、足裏で支えろと言われた。繋がっている箇所がよく見えるようになるだろう。指の一本一本を絡めるように両手それぞれと繋いで、恵は言われたように再び動き始めた。
「あ…アッ……ん…」
「いいところに当たっているのか」
「ン…ここが……アッ!」
浅いところで宿儺の亀頭を当てていたら、宿儺が腰を突き上げて更に奥へと勝手に入ってきた。恵の動きと宿儺の動きはやがて重なり、ベッドが揺れるほどに激しくなっていく。
「う…、すくな、イク――ううっ!」
快楽の強さに比例するように宿儺の手を強く握りしめ、仰け反りながら腹の中から広がる感覚に酔いしれる。恵の陰茎からは何も出なかったが、間違いなく達している。
びくびくと余韻に震える体を宿儺は抱き寄せた。
背中を優しく撫でられると、全身に喜びが広がってうっとりしてしまう。無性に口付けたくなって、宿儺の唇を舐めるとすぐに舌同士を絡ませることになった。口を閉じずに舌を絡め合わせる感覚は他の何にも替え難い。はしたなく、卑猥で、特別な行為のように感じている。宿儺にはこんなことをしても大丈夫だという信頼があってこそだ。そうでなければ出来ない。
その内舌が飲み込まれて、口内全てで口付けを交わす。夢中になってると、いつの間にか体勢を変えられて、恵はベッドを背中にして横たわっていた。見上げると宿儺が視界いっぱいにいて、他の何も見えない。恵を貪るのに夢中な宿儺の首に腕を回してより密着する。
互いの腰が揺れ動き、共に快楽を求め始めた。奥の奥まで貫いては出ていき、得も言われぬ感覚へと突き落とそうとする行為に恵は抵抗しない。寧ろ出ていこうとする宿儺の陰茎を引き止め、入ってくるときには歓迎してより奥へと誘い込んでいる。
今の心境をなんと言い表すべきか分からない。ただ、宿儺が恵の全てを見たいというのなら見せてやる。何もかもを受け入れてくれるなら何も隠さない。それだけだった。
繋がれる場所は全て繋がるために使い、閉じ込めるように体を絡ませ、互いに自分へと縛り付ける。本来この行為にあるべき感情を持ち合わせているとは思えないが、今はこうしていることが何より幸福に感じる。これ以外の何もしたくないし、何も考えたくない。眼の前の男だけを世界の全てだと感じていたい。この男の体とベッドの僅かな隙間だけが恵の存在を許すような狭い世界に閉じ込められたいなどと、倒錯的な欲望が湧き出る。
恵が一際大きく体を震わせ、宿儺の舌で閉じ込められた口の中でくぐもった悲鳴を上げると、一旦動きは止まってしまった。
快楽に追いつけなかった体が涙を流しているのを惚けながらも感じる。感情が大きすぎて体から溢れている。堪らない。こんなことは初めてだ。
口を離せば混ざり過ぎた唾液がだらりと垂れる。
宿儺は至近距離から恵を見つめて頬や顎を撫でる。
「実に惜しい。あと一度達してしまえばお前のこの乱れた姿をもう見れなくなるとは」
腹の中にある大きくて太い陰茎がはち切れそうなのにまだ達しないのはそれが理由らしい。
ふにゃふにゃと柔らかかった陰茎が恵の腹をえぐるほどに硬く膨張させた事実に興奮していることを恵は認めるしかなかった。嬉しくて堪らないのだ。宿儺は恵を強く求めている。その事実が体に、行動に現れている。
「……別に、またやればいいだろ……。この部屋を出たあとも……」
恵の言葉に宿儺がぱちくりと目を瞬かせた。予想外だったのだろうか。こんなにも互いが夢中になって貪り合っているのに、この喜びを今後も味わいたいと恵も願っているとは考えなかったらしい。
「その言葉、忘れるなよ」
口を覆われて返事はできなかったが、宿儺の舌に自ら絡むことで答えを教えてやる。
長大な陰茎が恵の最奥まで達した時、宿儺は三回目の絶頂に達した。じんわりと腹の中の満たされた感覚に浸っていると、次第に意識がぼやけてきて、恵はそれに抗えずに目を閉じてしまった。
●
目が覚めたら、自分の部屋だった。なんてことはない休日の朝だった。体のどこも汚れておらず、違和感もない。
あれは夢だったのか。夢だとしたらなんて内容だ。最も親しい友人に抱かれたいという願望でもあったのか。しかもあんな無茶難題を掲げられて、仕方なく、という流れで?
あまりにも自分自身を理解できなくて混乱しているというのに、早朝から玄関の呼び鈴が鳴った。こんな非常識な時間に誰が訪問してくるというのか。呆然としながらも、インターホンを見ると宿儺がいた。
我を忘れて慌てて扉を開けると、すぐに宿儺が玄関に入り込み、挨拶もないまま強く口付けられた。
こんなレイプまがいのことをされても恵は何一つ抵抗せず、寧ろ受け入れて宿儺に縋りついてしまった。
まだ夢の中にいるのかもしれない。宿儺は慌てたり急いだりするような男ではない。どんな状況でも余裕を作り出すような巧みな男だというのに、縺れ合いながら恵のベッドに押し倒す宿儺はいつもと全く違う。夢の中で我を忘れて腰を振っていた時と同じだ。
「お前が拒まんということはあれは夢ではなかったのか?」
両腕の檻の中に閉じ込められても尚恵が驚かないことの疑問が生じたのだろう。
「さあな。現実だったとは思えない。だが、脳の見せた独りよがりな幻覚でもなさそうだな」
その答えを聞いて宿儺は恵の服を脱がせ始めた。
性急な手を恐れたりはしない。寧ろ喜んで身を任せ、互いに何物も隔てない状態となる。
あの奇妙な部屋では既に繋がっていた恵の尻穴は、今はすぐに宿儺を受け入れられそうになかったが、代りに宿儺はしっかりと閉じた恵の太腿の間にその逞しい陰茎をねじ込んで腰を振り始めた。
「あっ! あっ! んぁ…ッ! はげしっ――」
あの時ほどの快楽を得られないにしても、自分に覆い被さって恵で快楽を得ようと激しく動く宿儺の迫力に圧倒される。堪らない。前々からこの男は恵を贔屓する嫌いがあったが、それの意味が変わってしまったのではないか。瞳に籠もる感情が違う。以前のような「認めた相手」ではなく、今は「求める相手」になった。
恵もそうだ。友人関係なら他の誰とでも築ける。だが、この行為をする相手は宿儺でなければ満足できなくなるだろうという予感がする。
苛烈な執着が燃える瞳に焼かれている。この体が熱くなるのはその瞳の熱にあてられているからだ。友人という関係も焼かれて、今は新しい何かになりつつある。
宿儺が射精に至った後、恵は息も絶え絶えにベッドの上に横たわりながら、汗ばむ宿儺の顔を見た。まだ熱が収まりきっていない。満足していない。まだ終われない。もっと、と欲張る瞳が恵の全身を見ている。
腕を引かれ身を起こすと、宿儺は胡座の上に恵を座らせた。言葉がなくても分かっていた。大きく口を開け、舌を見せつけるように出せば、すぐさま宿儺は舌を絡めてくれた。
恵の口の中が宿儺に支配される。鼻で呼吸するたびに口内の匂いが宿儺で塗り替えられるのを感じる。
誘導されて恵の手は宿儺の陰茎をしごき始めていた。宿儺もまた、恵の陰茎をしごいている。
相手の動きを真似てより強い快楽へと追い込む。酸欠によるものなのか、性的なものによるものなのか分からないくらくらとした感覚に酔っている。
それでも口を離すわけにはいかなかった。今すぐ尻穴を使えない以上、繋がれる粘膜は口だけだ。唾液の漏れる口、先程の射精時に拭われなかった陰茎のどちらからもはしたない音が聞こえる。
燃やし尽くされそうな高温の執着に気が狂いそうだ。でも、終わりたくない。ずっと感じていたい。初めての感覚に踊らされているだけなのかもしれない。
それなのに、早く宿儺が射精している顔も見たいのだ。食事を堪能している時とも違う、切なげな顔が見たい。三回目にして漸くまともに見れたあの顔は、恵に全てを注ぎ込みたいという欲を隠していなかった。その欲が満たされている瞬間の、切なげながら満足そうな顔を見たい。どうして今すぐ繋がれないのかと悔しくなる。
陰茎に与える刺激を強くしていき、互いの絶頂まで追い詰めていく。
一際強く宿儺に舌を吸われ、恵は限界を迎えた。
「ンむ、う――、ん゙~~~!!」
宿儺の口の中で恵の嬌声が食われ、恵の精液が宿儺の手を汚したが、同時に宿儺も射精したようだった。手が粘液で濡れる感覚に満たされることがあるなんて。
口を離し、額を当てながら至近距離で相手を見る。炎の勢いは穏やかになったが消えていない。腹の底がキュンとした。
「腹が減ったがお前も食い足りん」
触れるだけの口付けを顔中に与えられるとくすぐったくて仕方がない。
「飯にするぞ。……その後好きに食えばいい」
腹で宿儺を受け入れる方法もその時に調べる。そう耳元で囁やけば渋々宿儺は恵を持ち上げて風呂場に向かい体を洗った。
今朝になるまであった友人関係は燃え尽きた。今から始まる関係をどう名付けるべきかはまだ知らないが、その名称が決まる前に恵は宿儺を受け入れているに違いなかった。

