虎杖悠仁は非常に悩んでいた。
何でもかんでも多頭飼育は問題がつきものだ。ペット同士の関係だとか、スペースの問題だとか、ありとあらゆる問題と向き合う必要がある。それでも可愛いから、家族だからと人間側が頑張ってしまうのだが、今回はどうしたものかと考えてしまうのだ。
悠仁が家で飼育しているのは二匹の兎だ。雄のスクナと雌のメグミはかなり相性がいい。元々スクナだけを飼っていたのだが、あまりにも凶暴で飼い主たる悠仁にも懐かず、困っていたところに何故か五条がメグミをくれたのだ。いや、それどころじゃねえんだけど? と悠仁が困っているのを尻目に、スクナはメグミを気に入ったらしく、二匹は仲良く暮らし始めた。
仲が良すぎて、ほぼ毎日発情することまでは想定していなかった。
元々スクナが凶暴すぎて離れに放ったらかしにしていたのだが(人に聞かれたら非難されるのは分かっているがそうでもしないと悠仁の身の安全が脅かされていたのだ)、その離れに二匹とも引きこもってしょっちゅう交尾をしては子供を生み、生まれたらまた交尾するという具合である。
また交尾の最中のアンアンというメグミの声が響くから困ったもので、近所迷惑になっているのだが、兎のしていることをとやかく言ってもどうしようもない。近々離れに防音工事しなきゃなんねえのかな、などとうんざりしてくるほどである。
そもそも、スクナだって、預かってくれと言われただけなのに、預けた相手が行方をくらませて結局押し付けられただけの兎だ。それが流血沙汰まで起こす凶暴な兎だと知らされていたら最初から断っていただろうに、悠仁が捨てたり保健所に預けたりしないとわかっていての所業である。二泊三日の旅行じゃなかったんかよ、と何度も思うことだ。
しかしまあ、産まれてくる子兎はとても可愛らしい。数さえ多くなければ。今はどうにかしてメグミを説得して飼育しきれない子兎の里親を探しているところである。去勢手術をしようものなら、スクナが草食動物とは思えないほどの大暴れをするし、せめてメグミだけでも……と病院へ連れて行こうともスクナが邪魔をするので、去勢することもままならない。
メグミには「やりすぎでしょ……」と苦情を入れたことがあるが、顔を真っ赤にして目を逸らしながら「だって兎なんだから……しかたねえだろ……」と言い訳されて終わった。仲睦まじくて大変宜しゅうございます。
足元にまとわりつく、人と同じような動きをする『小人兎』の赤ちゃんを抱き上げながら、今日もまた離れで励んでる二匹をどうやったら止められるんだろうなあ……と悩むのであった。
🐰
兎は随分昔に言葉を喋るようになったらしい。メグミは生まれたときから喋ることができたので、その長い歴史を知らないが、鳥やら犬やらも喋るし、そんなものだと思う。それでも体の大きさは変わらないし、ちょっと人間臭くなったらしいのだが、メグミには分からない。
人は大きくて頭にしか毛がなくて、自分たちの世話を何故か見てくれる生き物だ。昔から人間は兎を愛玩するのが好きだという。変な生き物だと思うが、メグミはそのお陰でスクナという伴侶に出会って幸せになっているので、有り難くその不思議な性質にこの身を預けている。
スクナは悠仁が世話をしていた雄の兎で、メグミが出会った頃はまだ大人になったばかりで常に気が立っていたらしい。世話が下手な連中ばかりだとぷんすか怒っていたある日、悠仁がメグミを連れて帰ってきたので、ここに居座ることを決めたという。
「お前ほどの相手はどこにもいないからな」としょっちゅうメグミを口説いている。
メグミはメグミで前の飼い主のことでちょっと困っていた。前の飼い主は悪い人ではなかったが、兎と暮らすにはあまりにも向いていない性格で、お互いに話し合った結果、メグミを託せそうな人の所に連れて行かれることになった。メグミは五条が嫌いではなかったけれど、あの人とうまくやれる自信がまったくなかった。五条も五条で、子兎のときに拾ったはいいものの、面倒が見きれないとすぐに判断して、悠仁に話をつけたのである。
先住兎がいるとは知らなかったが、スクナは親切で優しかったし、とても良い雄だった。悠仁が恐れるほどの酷い兎とは思えず、メグミはすぐにスクナに体を許した。二匹の相性はとても良く、メグミはここに来てよかったと心から思うのだ。
今日もスクナが朝食を悠仁からもらってきて、メグミに食べさせてくれる。甲斐甲斐しいこの雄は時々食べさせながらキスをしたり、不埒な事をする。悠仁に用意させた服の上から弄ったり、太腿の裏を撫でるのが好きなのだ。困ってしまうのに嫌じゃないから、メグミはスクナの好きにさせている。
スクナは昼夜問わずメグミにべったりだ。妊娠期間である一ヶ月の間は特に甲斐甲斐しく面倒を見て、やたらと引っ付きたがる。子供が生まれたあとはしばらく労ってくれるが、メグミが回復したらすぐにまた孕ませようとする。
今も食事を終えて子供たちが母屋の悠仁のところへ遊びに行ったら、べったりといやらしい手付きでメグミの腹を撫で始めた。スクナの行為はかなり執拗で、長くて、丁寧で、いつもメグミは参ってしまう。終わった頃にはぐったりしているが、同時に満足感もあった。大人になってすぐにスクナに孕まされたから、メグミはスクナしか知らないけれど、多分とても上手いんだと思う。メグミをよく見て、反応のいいところだけをずっと撫でたり触ったりして、いつもくったりさせてから、ゆっくりとメグミの腹に入ってくる。気持ちよさで意識が揺蕩う中で感じる強烈な熱と愛に、いつもメグミは嬌声を上げている。
悠仁には近所迷惑だから抑えてほしいと苦情を入れられるものの、そんなことを言われてもどうしようもない。昔の兎は鳴かなかったそうだが、いまの小人兎は喋るし二足歩行をするし、人間ほど器用ではないが道具だって多少は使える。だが、いつでも発情できるだとか、子沢山なのは変わりない。本能なのだ。抑えられるはずがない。
六つの乳頭を後ろからさすさすと撫でられるのを、メグミは背を仰け反らせて受け入れる。スクナは警戒心が強いから、他の誰かがいると決して交尾をしない。だからこそメグミもリラックスしてスクナを求めることができる。ぴくぴくと鼻をひくつかせながらスクナが全身を撫で、服を脱がした。毛づくろいよりもずっとねっとりとした触られ方にメグミも高まっていく。
何度出産してもスクナの勢いが衰えることはなく、メグミが子を産めば産むほど、スクナはより一層メグミに優しくしてくれる。だからメグミは子作りが好きだった。悠仁に迷惑をかけているのは分かっていたが、子供達は可愛いし、メグミが孕まなくなったらスクナがどんな顔をするのかが恐ろしくて、避妊手術の話にはいつも曖昧な態度をしてしまう。スクナは去勢手術を絶対的に拒んで悠仁を攻撃しているし、諦めてもらう他ない。
メグミが我慢できなくなってスクナに向かってしっぽを上げると、メグミの濃いピンク色の生殖器にペニスが入ってきた。昔の兎は短い時間で終わらせていたそうだが、小人兎の交尾は個体によってマチマチだ。スクナは長く交尾をしていたいそうで、いつもじっくりとメグミを抱く。人間の真似事をして、入れたまま触ってくることもある。どれも気持ちいいからメグミは何でもOKだ。
今日のスクナは何回かに分けて楽しみたいらしい。ぴゅっとメグミの腹に射精して、くんくんと恵の首の後ろに鼻を押し当てる。まだ元気そうだから、お昼御飯までやるのかもしれない。
はぅ……とメグミは声を漏らして、スクナの激情を何度も受け入れた。
🐰
悠仁は偶に「会議」をしたがる。議題は子供達の引取先についてだとか、去勢・避妊についてが多い。
何度もあげられている去勢・避妊という議題について、スクナは大体その単語を聞いた時点で足をダンダンと苛立たせているのだが、今回は神妙な顔をして話を聞いていた。
これまでのこの話題の理由は子供達が増えすぎるからというものだったが、今日は「寿命について」という紙を見せてきたのだ。
「スクナ、お前、メグミのこと大好きなんだよな?」
「お前に語るまでもない」
フフンと誇らしげに言ってくれるからメグミはくてっとスクナによりかかる。
「長生きしてほしいよな?」
「当然だ」
「なら避妊しよ」
悠仁は紙を捲って、箇条書きにされた内容を読み上げた。
一、兎同様、小人兎も子宮の病気になりやすく、七、八歳でほとんどが子宮の病気になるらしい
一、だから若くて健康なうちに避妊手術をしておいた方がいい
一、オスも同じく、病気の予防で去勢した方がいい
スクナもメグミもこれは悠仁が一人で考えたわけではないだろうと予想できたが、特にそのことについては口に出さなかった。寧ろ、他人の力を借りてまでスクナとメグミを説得しようとしているのだから、これは相当なことではないだろうかとメグミはスクナによりかかるのをやめて、しっかりと座ってその紙を見た。
「いやさ、お前らが仲良いのは構わんけどさ、病気のリスクあるならさ、睾丸と子宮と卵巣取ったほうがいいんじゃないかって。せめてメグミは手術しといたほうがいい」
「別に、いい」
メグミの言葉にスクナと悠仁が目を見開いたが、メグミはもう一度、「赤ちゃん産みたいから、いい」とはっきり言った。
「そんなに産みたいん?」
「産みたい」
スクナがメグミを大切にしてくれているのは、メグミが沢山子供を産むからだ。次から次へと産まないと、スクナはメグミに見向きもしなくなるだろう。年で産めなくなったのなら諦めもつくが、今は嫌だ。スクナに愛されなくなるくらいなら病気のリスクなんて気にしない。
「スクナだって、俺に産んでほしいだろ?」
その言葉にスクナが顔を顰めた。間違ったことを言ってしまっただろうかと途端に不安になる。
だが、スクナはひしとメグミを抱き寄せた。
「俺の子を産もうと産むまいと俺の気持ちは変わらん」
悠仁に聞こえないくらいの小さな声で、ぼそっと今まで何度も聞かされた言葉を囁かれる。
スクナとメグミはそれぞれもう繁殖できないように手術を受けることになった。
「なんで手術したのに、あいつらあんなにハッスルしてんの? どういうことなんだよ……」
悠仁は頭を抱えながら順平に愚痴る。別に順平だって兎に詳しいわけではないが、周囲で一番やさしく愚痴を聞いてくれる相手の一人だ。今回、長生きするために避妊・去勢しようという提案についてアドバイスしてくれたのも順平だ。
繁殖についてだけでいうと、メグミの手術さえしていれば、スクナの手術は不要なのだが、スクナの攻撃的な性格が丸くならないかと期待して、金額的負担よりも精神的負担を優先した結果、どちらも手術させたのに、スクナは相変わらずメグミと自分の子供達以外には攻撃的だ。
睾丸を取れば比較的穏やかになる可能性があるだけで絶対ではないと知ってたがもう少し丸くなってほしい。まあ、それよりも、昼夜問わずアンアン声を響かせてる方が問題だ。子供はできなくなったし、二匹とも性欲とはおさらばしたんじゃねえの?
「マウンティング自体は手術しても残るらしいよ?」
ほら、ここに書いてある、と小人兔に関する記事を読ませてくれたが、アイツラの場合、人間のようにセックスを楽しんでるようなのだ。ヤッてる最中に離れに近付くとめちゃめちゃ痛い思いをするので近づけないし、カメラを置いても破壊されたので、どうなってるのか全然分からないがメグミの甲高い声は変わらず聞こえる。
「う〜ん、スクナはちょっと小人兎らしくはないよね。最近、虎杖くんの名義で株し始めたんだっけ?」
「そうなんよ、びっくりしてさあ……俺より稼いであの離れを改造するつもりらしい。でも年末のあれこれ? の書類、俺がやらないとだめなんだって。もうやだよ、あの兎」
毎日うるさいから、メグミにこそっとクレームしたら、やっぱり頬を赤く染めて「だって番なんだから……しかたねえだろ……」と幸せそうに言われるのでもうどうしようもなかった。スクナの稼ぎで防音工事をしてもらうしかない。
それだけを期待して悠仁はすべてを諦めた。

