4回別れた宿伏 - 3/3

4回目の戯れ

 一年ぶりに再会した宿儺と食事をし、いくらか話をした後、恵は宿儺とホテルに入った。まだその時点では復縁していなかったのに、宿儺の目を見ているとくらくらして、正常な判断ができなくなる。だって、嫌いになって別れたわけではない。宿儺に求められたのならば応えたい。あれから一年の間、宿儺の隣りにいても見劣りしないよう努力した。異動前の営業部ではそれなりの成績を収められるようになり、商品開発部に転属した。宿儺がいつも励ましてくれる才能を信じた結果でもある。今なら、隣りにいてもいいんじゃないか。そんな気持ちで宿儺を見ると、顎を撫でられた。
 ホテルの一番高い部屋にキスをしながら入り、互いに脱がし合って入浴した。湯船で宿儺の逞しい胸板に凭れ掛かりながら、全身を隈なく弄る宿儺の手の動きにうっとりとする。
「最後に会った時よりもマシそうだな」
 臍を執拗に指で掻きながら、太腿の内側をいやらしく撫でられる。
「異動して、残業減ったから」
「それでもなお細い。たくさん食わせてやらねばなあ」
 項を唇で食まれる。声を漏らすと宿儺が機嫌よく笑った。
「いいのか」
「当たり前だ。弁当もつけてやる。安物で誤魔化そうとするな」
 振り返って宿儺とキスをする。くちゅくちゅと唾液が漏れるくらい長いキスをした後、下準備を終わらせて、ベッドに二人で倒れ込んだ。
「この一年、どうしていた?」
 宿儺のにやにやと悪人らしい笑みに、恵は口を噤んだ。宿儺はただどう過ごしていたかではなく、どのようにして体を慰めていたのかを知りたいのだ。もう恵の体は宿儺がいなければ満足できないようになっている。大学入学前は宿儺に与えられる快感を知らなかったから平気だったし、一週間だけの別れの時は期間が短かったから何も苦ではなかった。しかしこの一年は違う。宿儺によって作り変えられた体は元に戻りはしなかった。
「言え、恵」
宿儺に頬を撫でられて、恵は白状した。
「後ろ、後ろで……お前にされたようにして……でもあんまり……イケなくて」
 宿儺の手が体のあちこちに触れたことを思い出しては熱を上げた。しかし思い出だけでは絶頂に至れない。だから何度か己の手だけで自慰をしたが、それでもちゃんとイケたことは少ない。宿儺の声を頭の中で繰り返しながら、瞼の裏に宿儺の顔を思い浮かべて、その体の熱に恋い焦がれながら、一等切なくなった時にはイケたが、同時に一人だけであることを痛感して虚しくなった。宿儺がいないだけで寂しいのに、傍にいると苦しいから逃げる。矛盾してる。
「よし、俺にそれを見せろ」
「えっ」
「俺に申し訳なく思うのなら、それくらい容易いな?」
 ぎらぎらと輝く宿儺の瞳は冗談を言っていなかった。真剣に恵の自慰を見たがっている。ぞくぞくしながら頷くと、いい子だと頭を撫でられる。痛いくらいにきゅんきゅんする胸を抑えながら、恵は横向きになり、体を半分折りたたむ。前から自分の性器を握りつつ、もう片方の手で後ろの入り口を解すように触れた。ゆっくりと、じわじわと指を穴に入れていく。本数を増やしても、性器を扱いても、宿儺に見られているという事実がある以上、本当に一人で慰めていたときとは訳が違う。見られたいような、見られたくないような、しかし明らかに体の反応が敏感になっている。どきどきする。宿儺の逞しい男性器が恵の体を犯す瞬間を想像しながら前立腺を刺激すると、びくんと体が震えた。
「恵、それでは俺には見えん。仰向けになって腰を上げろ。後ろから指で尻を犯して魔羅を扱け」
 かあっと恵は羞恥心に駆られた。そんなことをしろなんて今まで言われたことがない。いつだって受動的であることを許してくれた宿儺が、恵自ら痴態を晒せと命じている。息を荒くしながら、命じられた通り仰向けになり、宿儺に穴が見えるように腰を上げて、後ろから指で穴を拡げる。そそりたつ自分の陰茎を扱きながら、指を三本に増やしてバラバラに動かしているのを宿儺に全部見せる。
「俺に見られているからそんなにはしたないのか?」
 クククと宿儺に嘲笑われて、恵は涙を浮かべる。宿儺が意地悪をするなんて、考えられなかったことだ。いつだって甘やかしてくれたのに。でもこれはいつも恵から別れを言う罰なのかもしれない。宿儺がいくら恵に優しくても怒らないわけがない。喘ぎ声に嗚咽が混じる。
「泣くな泣くな。何が悲しい?」
「ちがう……いつも……お前の優しさに甘えてるのが情けなくて……」
「構わん。俺がしたくてしてる事だ」
 優しく前髪を掻き上げられ、額に口付けられる。思わず口を開いて舌を出すと、嬉しそうに舌が絡んできた。キスはいつもどおり優しい。気持ちがいい。
「頑張った褒美だ、とびきり丁寧に抱いてやる」
 穴に入れていた恵の指を抜き、ゴムをつけた宿儺のモノがあてがわれる。ぎんぎんにいきり立った性器が恵の体に入ってくる。これを一年待っていた。最後まで入れられていないのにびくびくと体を震わせて射精してしまう。それを構うことなく、宿儺が進んでくるので快楽の暴力で頭がおかしくなりそうだった。
「お前の体は俺をよく覚えているらしい。俺に絡んで離そうとしない」
己の従うべき男をよく理解している良い体だと褒められた。嬉しくなってキスをねだると、頭まで食べられそうなくらいの大きな口が恵を翻弄した。律動と共に舌で絡み合うことの歓びは他の何にも代えられない。
 正常位で一度絶頂に至り、対面座位で深く深く犯され、バックで犬のように躾をされて、恵は声が嗄れた。腰も痛くて仕方がないのに、心地よい倦怠感と甘い痺れが全てをどうでもよくさせた。バックの時に叩かれた尻がひりひりするのさえ、その時の快楽と宿儺の歓喜の証拠のように思えてドキドキしてしまっている。少し怒っているような宿儺の行為にも安心した。叱られているということは、恵を求めているということだ。どうでもいい相手に宿儺は躾けたりしない。嬉しくてまた尻穴が疼く。
 ホットタオルで宿儺に体の隅々まで拭かれている間も敏感になった体は感じていた。宿儺はそんな恵を「いやらしい」と言ったが、その声には喜色が滲んでいた。はしたなくても見離されない、それどころか喜んでくれている。よかった。
 次の日の朝、ちゃんと言葉にして交際を再スタートさせた時の喜びは計り知れなかったが、同時に湧き出る「また別れたくならないだろうか」という不安を抱えつつ、宿儺の家で一年の空白を埋めるようにまぐわった。