貴方の眠りをこの腕に抱いて(サンプル) - 6/8

「寝顔」その後 04

「伏黒、これ……」と悠仁が要件を言おうとした時、恵が申し訳無さそうに「名字、変わったんだが」と申告した。そうだった、少し前にこの男は兄と結婚して虎杖姓を名乗るようになったので、伏黒ではない。
「でも、そっちも俺のことまだ名字で呼ぶじゃん」
指摘すると恵が困った顔をした。
「何バカみたいな会話してんの、名前で呼べばいいじゃない」
野薔薇の言葉はご尤もだ。現在は親族なのだから名前で呼び合って当然なのである。
「なんとなく恥ずかしいんだよな……」
兄との結婚で義兄になった友達を名前で呼ぶのは少し気恥ずかしい。しかも今まで名前で呼んだことがないのだ。恵も全く同じ気持ちらしく、難しい顔で悩んでいる。
「じゃあお兄様って呼んでやれよ」
パンダと棘が笑いながら近寄ってきた。いいターゲットが見つかったという笑みだろうか。恵がうんざりした顔で二人を睨んでいる。
「でも伏黒って弟感滲み出てね?」
「んなもん出てねえよ」
やいのやいの言いながら、そう言えばと真希が口を開いた。
「こうなることくらい、予想ついてたろ。どうして名字変えたんだよ」
配偶者と別姓か同姓か、婚姻届を出す時に選べるようになっており、人によって選択は様々だ。野薔薇は絶対別姓にすると決意してると聞いた(銀行から通販サイトまで氏名を変えるのが面倒だから)。恵の性格的にも別姓の方が納得できる。
しかしながら恵はだんまりを決め込んだ。経験的に予想がつく。これは口を絶対割らないパターンだ。まあしつこく聞けば答えてくれるが、暫く不機嫌になるのもセットである。
予想通り、その場では決して口を割らなかったが、大学からの帰り道、恵と悠仁だけで歩いていたら、カタコト混じりで答えを教えてくれた。要するに、宿儺の為に虎杖家に通っている内に祖父の事も慕うようになり、虎杖家に憧れを抱きつつあった。宿儺と結婚すると決めた時に、虎杖家のメンバーになった感じが欲しくて、思い切って同姓にしたのだとか。
「まあ……そういうわけだから……名前……呼べ」
「お、おう……」
兄の夫がめちゃくちゃ顔を真っ赤にしながら目を逸らしてる。恐らく悠仁より恵の方が名前で呼ぶことに慣れる必要がある気がする。