「寝顔」その後 02
「そういや、なんで学生結婚したの? 別に急ぐようなことでもないと思うけど」
悟の言葉に恵が眉を顰めた。恵はおちょける人間があまり好きではないようで、悟を筆頭に棘、パンダなどの事も、あまり絡まれないように心掛けている節があった。しかしながら、恵が宿儺とお揃いの指輪を左手の薬指にするようになってからは格好の餌食となっている。
「別に。なんだっていいじゃないですか」
「いやいやいやいや、恵の兄貴分としては気になるじゃない? つーか宿儺と恵がそんな仲になってたの、僕全然知らされてなかったし」
宿儺と面識があるらしい悟は、恵の入籍を知った時、「えっ、もしかしてできちゃった婚? 流石アイツの息子だなあ」などとゲラゲラ笑っていたのに、その相手が宿儺と知ると、割と真面目なトーンでやめとけと恵の両肩を掴んで揺さぶって離婚させようとした。
悠仁はその反応に納得するしかない。あんな横暴と不条理を詰め込んだ男、普通はだめだと思う。結婚相手に選んではいけない男ナンバーワンだ。しかしながら、その自然災害レベルの迷惑な男は、恵にだけ優しいのである。
当初、宿儺に脅されて結婚したのだと決めつけていた悟は、悠仁の説明を聞いても全然納得しなかったが、大学まで迎えに来てそのままデートする宿儺と恵を見て、アイスブルーの瞳が転げ落ちそうな程驚いていた。恵の親と旧知の仲ゆえに、幼い頃から恵を弟分として可愛がっていた悟はかなりショックだったらしく、たまに面倒くさいことを言い出す。恵は苛ついているが、悠仁も「七十六億人の中から一人選ぶなら絶対宿儺より良い人がいる」と考え直すよう説得したので、あまり悟のことをとやかく言えないのだった。
「大体、デリカシーなさすぎです。人がいつ誰と結婚しようとアンタに関わりないでしょ」
「僕だって宿儺以外ならどうでもいいよ、普通にお祝儀包んでライスシャワー浴びさせてやるけどさあ、宿儺じゃん? しかも法律上問題なくても学生の内に結婚したがるって、束縛強くない?」
恋人が世間を知る前に結婚したがる男はそれなりに多い。社会人になったら、もっといい相手を見つけてしまうかもしれないからと囲い込むのだ。要するに宿儺もそうなのではないかと悟は言いたいようだった。
「宿儺はそんなんじゃないですよ」
「どこがだよ、僕が知る限りトップクラスのクソだけど」
「それについては今躾けてる所なんで」
悟が固まった。気持ちは分かる。さらっと何を言い出しているのだと耳を疑うのは当然の事だ。2秒ほど固まった後、悟は身を捩らせながらゲラゲラ笑い出した。
「ウケる、何それ、躾ってどーゆーことよ? マジで言ってんの? ガチ?」
「煩い……」
恵が到頭静かにキレて騒ぐ悟を無視し始めた。こうなると恵は怒りが収まるまで悟の相手をしないだろう。今日一日は不機嫌かもしれない。
因みに以前、同期で食事に行った際、野薔薇に同じように尋ねられた時は暫く渋ったものの、素直に答えている。
宿儺は睡眠障害のせいで、実は色々な病気を抱えている。本人が全くそれらに屈していないので事情を知らない人間は大抵驚くのだが、あちこちの病院に通っている状態だ。結婚前に出掛けてた理由の大半が宿儺の通院の付添だったそうなのだが、家族でないために医者の話を一緒に聞けないのがかなりもどかしかったらしく、早く結婚したいと恵の方から言い出したのだとか。この時点で悠仁はなんとも言えない気持ちになってそれ以上話を聞くのを止めた。
そもそも通院すら鬱陶しいと全然行かなかったのを、恵が「オレを置いて早死にするつもりか」と一言放っただけでちゃんと通うようになったと知っているので、更にダメージがでかい。
因みに躾云々については、まず恵と特定の場所(即ちベッド)以外でちゃんと起きていられるよう特訓をしており、宿儺が恵を迎えに来るのもその一環だ。ついでにデートを楽しんでいるのだが、どうしても恵以外の人間に対する態度が気に食わなかったらしく、せめて誰彼構わず威圧するのはやめろと言い聞かせているとのことだ。恵は「犬の躾と変わんねえよ」と反応に困る事を言う。祖父にこの事を話したら顎が外れるくらい驚いて、大笑いしていた。ツボにはまって咳き込むくらいだ。虎杖家は恵のことを最強の調教師という認識に改めた。
そういうわけで、色々ツッコみたいところはあれど、悟が心配しなくても二人は仲良くやっている。夫夫関係について、他人がとやかく言うものではないのだ。
