貴方の眠りをこの腕に抱いて(サンプル) - 2/8

寝顔 その後

三つ上の兄と自分の友人がルームシェアを始めるという。本当は秋頃に引っ越したかったらしいが、ルームシェアの話が出てから探し始めたので時期を逃したとか。兎にも角にも寒さが本格的になる前に居を移すことにしたそうだ。
宿儺はかなり面倒な人間だった。元々性格が悪いのだが、睡眠障害を抱えているからか、基本的に不機嫌で、態度も悪い、人の話も聞かないし、何よりも自分本意なので、まるで息をするのと同じくらいの気軽さと頻度で周りとの軋轢を生むのである。
そんな兄は春頃に完璧な安眠効果をもたらすものを見つけた。それが悠仁の友達である伏黒恵だ。理由も理屈も判明しないが、恵がいると熟睡できるらしい。そのためか、恵のことだけはびっくりするほど対等な人間として扱うし、優しげに接する。威圧することもない。紳士的な宿儺という、綺麗なジャイアンにも似た気持ち悪さに悠仁は一度ゲロを吐く真似をしてしまった。宿儺には殴られた。
恵も始めは戸惑っていたが、全然寝れないためにこさえてしまった目の下のくまなどを見ている内に憐憫の情でも抱いたのか、かなり宿儺の睡眠に協力的になった。
そこまでは、まあ、いいのだが、恵が「睡眠時間にばらつきがあると良くないらしいから、できればもっと付き合ってやりたいとは思う」とか言い出した。その「もっと」の頻度が増えるに連れ、恵は宿儺と会話したがり、宿儺も寝ぼけ眼ではあったものの、多少は反応を返した。恵がいると眠れるという安心感で眠くなるらしい。母親の腕の中でしか寝ない赤ん坊みたいだ。
そんな二人を何となく見守っていたら、ルームシェアまで行ってた。マジか?
見つけた新居は成人している宿儺の名義で借りるらしい。というか、新居に移るための費用の一切を払うつもりらしかった。祖父への最低限の義理としての金額しか家に納めないくらいケチな宿儺にしては大盤振る舞いである。寝具のこだわりについては言わずもがな、他の家具や家電もこだわるつもりみたいだ、と恵が教えてくれた。
「最初は断ったんだ、向こうの方が年上で成人してるからって、同じ大学生だろ。あいつだけの負担ってのはこっちも気分が悪い。でも、俺の話聞かねえし、好きにさせた方がいいって分かったからな」
どこからそんな金出てんだか、と恵が溜め息を吐くので、宿儺は宝くじでどんな金額であれ絶対当てる体質なのだと教えてやったら疑われたが、眠れないのを代償にしたのかと思うくらい金運がめちゃくちゃいいのだ。ついでに競馬、競輪、競艇とパチンコもするし、賭け麻雀で負けたことがない。宿儺とやれば尻の毛まで抜かれるのである。
それを聞いた恵はすごく嫌そうな顔をして、「全部やめさせる」とか言い出した。
その後、マジで宿儺はギャンブルを全部やめて、健全に投資で稼ぐようになった。ギャンブルを教え込んだ祖父共々、眼の前にいるのが本当に宿儺なのか疑ったくらいである。他人の話を聞き入れてるところなんて見たことない。医者の言うことすら聞かないのだ。恵は猛獣使いなのかもしれないというのが虎杖家の感想だった。

そんなこんなありながら、冬のはじめの頃、到頭宿儺と恵はルームシェアを始めた。一応二人の荷物を運ぶ為に唯一免許を持ってる悠仁が新居に入った時、一番広い部屋にどでかいベッドが一つだけ置かれているのを見たが、何とも言えない気持ちになったので見なかったことにした。ここで兄と友人が寝る。いやまあ、実家でもやってたことだ。別に変な意味じゃない。でも態々新居を求めてまでやることなのか、という気持ちもなくない。
そんな疑念は半年後の春、解決した。二人が付き合い出したのである。
やけに近い距離で歩いたり、あちこち一緒に出掛けたり、怪しいなと思ったら、恵が右手の薬指に指輪をするようになった。
一番最初に反応したのは野薔薇だったが、結局サークルの皆で問い詰めたり、からかったりしたら、恵がルームシェア相手から貰ったと苦々しく白状した。思わず「宿儺と付き合ってんの?!」と叫んだせいで、翌日から恵と悠仁は兄弟扱いされるようになった。
その後、正式な手続きを経て、恵は悠仁の義理の兄になった。