理不尽極まりない自社の経営方針と労働環境にリムルがキレながら、スライムカフェでの業務について確認しているとベニマルとソウエイが絶望しながらメイド服姿で歩いてきたので、何が起こっとんねんと変な関西弁で内心突っ込んでしまった。
「なに、それ……」
ベニマルが情けない顔でリムル課長! と駆け寄ってくる。ミニスカから伸びる長い筋肉質な脚に可愛いレースの靴下が似合わな過ぎて吐きそうだった。ていうかリムルの背が低いせいで、普通にボクサーパンツが丸見えである。最悪だ。
「ミリム社長の命令で……断ったんですけど……」
因みにかなり本気で嫌がって暴れたのに勝てなかったらしい。やはり、ミリムはもしかしてあちらの記憶があるのかもしれないという疑念が強まった。普通の小柄な女性なのだとしたら、180を超える男達を伸して服を強制的に着せることなど不可能だ。
情報提供ありがとう、と思いつつも、あと2、3歩下がってスカートの中身が見えないようにしてほしいと本気で嫌になってきた。
「え、お前らそれで仕事するの?」
「ミリム社長の目を盗んで、ウェイターの制服を奪ってきたので、今からトイレで着替えてきます」
ソウエイの優秀さはこちらでも発揮されるらしく、ベニマルも心強い同期がいるって最高ですよねとしみじみ言う。部下同士の仲がいいのは何より、ということでリムルは部下を信じて送り出したのだが、結果は大惨事、テンペスト商事雑務課は一日でカフェ業務を終えたのであった。
○
さて、そんなことがあった数日後、リムルはベニマルに相談したいことがあると言われて飲み屋に来ている。三上悟時代もこんなふうに後輩に誘われて何度も飲みに行ったなあなどと懐かしくなった。
後輩と部下は似て非なるもので、こちらに役職があるかどうかで人の態度は変わってしまうものである。いくら可愛がっていた後輩だったとしても、こちらが役職に就いたのならば他の連中と同様に公平な扱いをする必要があるし、後輩側もいつまでも役職のなかった頃のようには甘えられないものである。だから、飲みに誘われた時だって、先輩である時と上司である時は誘われる理由が変わると分かっていないと大失敗することも偶にある。しかも、今回は魔物連邦国ではリムルを主君として扱っていた筈の部下達が、商社の部下として雇われている状況だ。全然前提が違い過ぎるから、イングラシアでやっていた男子会(笑)と同じノリではいけない。気をつけないと変な扱い方をしてしまうかもしれない。大賢者のサポートを期待しつつ、ベニマルと飲み始めた。
「課長、その……うちってブラック企業らしいじゃないですか……」
「今更じゃね?」
「えっ?! 課長、分かってたんですか?!」
「いや、だって、色々おかしいだろ。普通の企業じゃねえもん。あんな馬鹿なことしたら労基に訴えられて倒産するわ。まあ、お前ら新卒で他の企業知らないもんな」
因みにリムルは社会人1年目から15年間ずっと同じ会社に勤めていたので、総合商社なんぞさっぱり分からない。ゼネコン以外なんにも知らないといえば、そうなのである。精々、友達から他業界や他企業の話を聞くくらいだ。
しかし、新卒とはいえ、どう考えてもおかしいことがたくさんあったのだが、亜人種とやらは他者を疑うことを知らないのだろうか。
「転職、した方がいいんですかね……」
おい、ベニマル、そういうことは同期に相談しろと言いたくなった。上司はそれを引き止める必要があるんだよ! 転職を勧められる立場ではない! 特にテンペスト商事の社長の性格から言って! いや、確かにここで転職を応援できるなら凄く人の出来た上司と言えるだろうけれども、リムルの今の立場だと、少しでも知っている相手を減らしたくないので転職は勧めたくない。ベニマルの給与と健康の為にはたとえ苦しくなろうとも、よりいい会社に転職すべきだが、リムルは自分の保身の為に部下を抱き込む事を決めた。
「まあ、今は業務改革で苦しいけど、落ち着いたら何とかなるんじゃね? 要するに当期純利益さえ回復すりゃあいいわけだから、売上高あげて、費用を抑えりゃいいんだろ。その費用部分を下げることに社長は熱心って訳だ」
「……? すみません、もう一度教えて下さい」
「ん?」
「売上があがるだけじゃ駄目なんですか?」
「お前、自分の給与明細、理解してる? 額面と手取は違うって知ってる?」
「知ってますよ! 額面から税金引かれた額が手取です」
「会社だってそうなの! 売上から費用と租税公課引いた金額が会社の利益だよ。だから、売上があっても費用かかってちゃ意味ないし、売上あげなくても費用を抑えれば利益はあがるわけ」
その結果、人員削減とか何とかして、現場負担を増やして、残業時間の上限突破して労基に訴えられてたら意味がないと思うのだが、こういう会社は中長期的な視点を持たないから、短期的な結果を求めて失敗するものなのだ。特に、ヴェルドラは長生きしてる癖にそういう視点も発想もないのは分かっているので、リムルは最早諦めた。巻き込まないでくれたらそれで良かったのに、何であんな暴走野郎がワンマン社長してるんだ。
リムルはその点、頑張ってマネージメントした方だと思う。部下一人一人が頑張れる環境を作り、自由な発想と発言でのびのびと仕事を頑張れるようにしてきたし、ヴェルドラの高濃度の魔素のお陰で魔鋼塊やらヒポクテ草関係及び迷宮に配置する魔物のコスト削減しまくれて、売上がっぽがっぽなのも、全てはリムルの経営センスの成せるものなのである。いや、誇張しすぎたかもしれない、大賢者やミョルマイルがいればこその部分が大分あるが、まあ、概ねそういうことである。
「人件費削減の為に利益のない部署を削りたいんだろ、だから雑務課へのあたりがキツイんだ」
そもそも、雑務課って名前がおかしい気がするのだが、リムルはツッコむのをやめた。テンペスト商事には常識は通用しない。
「流石リムル課長! そういう事なんですね」
「いやいや……」
とある企業が全員経営者目線で仕事に取り組むべきとか言い出した時は「何言ってんだ、経営者が経営を頑張れよ」と思ったものだが、こんな状態なら、経営者目線を知るべきではあるなと考えさせられる。
「お前らだってさ、自分の人生の為に仕事するんだから、もっと頭使って、利用されるだけってことのないように気をつけろよ。寧ろ会社を利用するくらいの気概でいなきゃなあ、やってらんねえぞ」
「そうなんですかね。でも会社を利用って何をすればいいんですか?」
「資格取得支援制度とかあるじゃん。それで興味のある資格を会社の金で取得するとかさ」
「うち、そんなのあるんですかね……?」
「会社説明で聞かなかったか? え、ないのかよ……」
因みにゼネコン時代に技士関係の資格は必須だったので取りまくったし、他にも色々建築関係なら資格取得している。リムルもさっさと辞めれる状況であれば、素早くゼネコンに転職してしまいたかった。というか早く魔物連邦国に帰りたい。福利厚生が手厚くないどころかサッパリなさげなこんなブラック企業から早く抜け出したい。有給申請しても社長が殴り込みに来そうな会社なんて潰れてしまえばいいのだ。
そんなこんなで飲みまくっていると、かなり遅い時間になっていて、いつの間にか終電を逃していた。人間態になれるならともかく、スキルも使えないスライムでは夜道を歩いて帰れない。幸い、ベニマルの家が近いというので、へべれけな二人はベニマルの家に向かった。ただ、こういう時の男の悪い癖で、あれだけ飲み明かしたくせにまだ飲みたくなって、コンビニで安酒とつまみをどんと買ってしまい、ベニマルの家でまた飲み続けてしまった。
いつかのときに見た通り、ベニマルの家は小綺麗だったが、甘味だらけの冷蔵庫にはマジかよと呟いてしまった。リムルとて甘いものは好きだが、ここまでではない。というか、甘党の癖に酒も好きとはなかなかやりおる、と感心しながら、缶を開けていく。自宅に戻ったからか、ベニマルは仕事関係の話ではなくて、しょうもない事とかも話し始めた。初めての就職、初めての勤務、初めての上司、全てに不慣れだったからか、上司のリムルが気さくなことにえらく気が緩んでいるようである。ただ、スライムの体だと介抱できないのでぶっ倒れるなよ、とだけは伝えた。
さて、しょうもない話とは好きな人が出来たけど望み薄すぎてどうすればいいか、ということだった。同期に話せ! と一瞬ソウエイやゴブタを呼び出したくなったが、こんな深夜に呼び出せないし、これもベニマルからの信頼の証と思って根気よく酔っぱらいの話に付き合うことにした。
その人は自分より立場が上で、かなりしっかりしている人なので、仕事を全くわかっていない自分など眼中にもなさそう、ということだった。そんな相手をどこで見つけてきたんだと思うのだが、詳しく聞いて面倒なことになるのは避けたいため、仕事を頑張っていればいつかその人の目にも留まるだろうし、仕事は慣れていくしかない、と慰めてやった。因みに話を聞いている限りテンペスト商事の社員のようだが、そんな優良物件いたかと疑うような人物像だった。仕事ができて、優しくて、部下のフォローしてくれて、きさくで、素晴らしい人っていたか? まさか、まかり間違ってガビルじゃなかろうな、あいつ部下からは好かれるタイプだからなとソワソワしたが、聞かないと決めたのだから聞かないのである。恐ろしくて聞けないとも言う。
「その人に認められるくらいの男に早くなりたいです」
「そうかあ、頑張れよ。お前ならできるって」
適当に相槌を打ちながら、ガブガブ飲んでいると、ベニマルが流石にダウンして、ベッドに転がり込んだ。因みにリムルにはクッションが用意されている。スライムなのでちゃんとした布団でなくてもよいのだ。リムルもそろそろ寝るかと用意されたクッションに移動しようとしたら、何故かベニマルに掴まれた。何事かと振り向いたら、そのまま抱きしめられた。
サイズ感でクッションとリムルを間違えるにしても、触感が違うから気付いてほしいものだが、なんと気付かぬまま、ベニマルはリムルをベッドに置き、覆い被さった。何か良からぬことが起きるぞ、とリムルは逃げ出そうとしたが、ベニマルはズボンも下着も脱いでリムルに腰を押し付け始めた。ベニマルはクッション使ってオナニーするタイプなのか、そうなのか、分かるよ、擦るだけよりも腰を使いたい時あるのは分かる、でも上司に押し付けんじゃない! と必死にもがいているのだが、ベニマルはかなり激しく力強くリムルに腰を打ち付けているので、タイミングがなかった。恐らく、酔いすぎて勃起してるのに射精できないという状態に陥っているのだろうが、それにしたって激しすぎる。安物のベッドでないようなので、ギシギシ軋むことはなかったが、もし音がするならうるさくて近隣住民からクレームが来ることだろう。とりあえず、大賢者によれば無効スキルや耐性スキルは使用可能との事だったので痛覚無効で何も感じないようにしているのだが、男のものを押し付けられても全然嬉しくないから、早く抜け出したいし、気まずいから何もなかったかのように振る舞って明日の始発で帰りたい。花金だからって飲みすぎたのだ。
その内、ベニマルがフィニッシュを迎えるのか更に動きが凄まじくなっているのを感じて、リムルは早く出せ! いや、出されたら汚れるから嫌だな、でも出さないと終わらないのか、と自問自答を始めた。いっそのこと、こっそりアシストして終わらせてやろうと酔った頭は判断して、ベニマルがしつこく攻めてくる箇所を多少変形させて、刺激を与えてやると、気持ちいいのか少しだけ喘ぎ声を漏らした。男もエロい声って出せるんだなあなどと無感動に思っていたら、ベニマルが「リムル課長…ッ!」と最後に漏らして射精した。やめてほしい、こんなタイミングで名前呼ばないでほしい。どういうあれでリムルの名前を出したのか知らないが、朝になったら何も覚えてないと信じていたい。とにかく、スライムのコモンスキルである捕食は可能だったので、捕食して何もなかったかのようにアリバイ工作した。
その捕食した精液から魔素を抽出して人間に擬態できると知るのは翌朝のことであった。
