いろいろと鈍感なスライムの話

 その日、リムル゠テンペストは目の前の現実に対し、頭を抱えた。何が起きたか分からない。このようなことは認めたくない。この現実を否定できるものがないかと周囲を見渡したが、肯定するものしか見つけられなかった。
 周囲の惨憺たる状況は筆舌し難い。ディアブロとシオンがキレて静止の声を掛ける前にベニマルに殴り掛かった結果、あちこちがぼろぼろだ。執務室ではなく、リムルの私室である庵だからまだ良かったが、これが周囲の目を集めるような施設であったらと思うとぞっとする。
 秘書達が暴れた理由は分かっている。リムルがベニマルと数回に亘り、同衾していた事を知ったからだ。しかもかなり最初の頃からその関係が始まっていたと知り、ベニマルとは旧知の仲であるシオンが感情を抑えられなくなって暴れてしまったのである。現在、誰にも被害が及びそうにないジュラの森林の奥で死闘が繰り広げられていると聞き、リムルは溜息をついた。
 秘書達と右腕の実力は分かっているつもりだ。街から遠く離れたところであったとしても、その影響が全くない訳がない。元凶であるリムルが出向かないと何も終わらないのだ、と分かっているが羞恥心で動きたくなくなっているのも事実だ。
 ただの好奇心がこんな事態に発展するなど誰が予想できようか。いや、自分のスキルに問えば答えてくれるだろうが、そんなのをわざわざ演算するバカもいない。

 一分後、街や周りの環境への被害を計算して覚悟を決めたリムルは、三人の馬鹿騒ぎを止めに行ったのだった。

 ベニマルとリムルの関係は、ベニマルがまだ名無しのオーガだった頃から始まった。とは言えども、始めは族長としてベニマルがリムルと対話したいと望んだので、皆が寝静まった夜に二人きりでそれまでのこと、それからの事について話し合っただけである。一族の復讐と復興を願う彼の話を聞き、リムルはなにか力になれることがあれば言ってくれと協力を申し出た程度の会話だ。
 その後も、周りが畏まり過ぎて肩が凝るなあと思っている中、ベニマルは二人きりだと馬鹿な話にも付き合ってくれたし、右腕として頼りにすることも多かったので、自然と仲良くなった。その延長で同衾するようになったのである。これは、ベニマルが主君と同衾する習慣が族長の間でのみ継承されていると説明し、リムルが息子の復活が見込めないのなら一度くらいは女の子気分を味わってみても悪くはないだろうという気まぐれを起こしたから、成立したようなものである。その後は快楽を求めて、周りに悟られないまま、慎重に関係を深めていった。
 無論、リムルは男を好きになったわけではないし、今でも女の子の腕に抱かれるとデレデレするし、シュナの目を盗んでどうにかエルフのお店に行こうと画策する。ベニマルもそんなリムルのことはよく理解しているので口出しなどはしない。
 二人には互いが世間で言うところの恋人関係ではないという認識があった。おおっぴらにするような事でもないし、何よりなんて言われるか分からないのと、二人きりの秘密というのも面白かったので、誰にも知られることなく、静かに関係が深くなっていったのである。
 そして、ベニマルの出世やら何やらは別にリムルの愛人であるからとか、そういうものでない。ベニマルの実力でその地位と信頼を得たのである。
「だからな、君達には関係ないんだよ、分かったかね?」
 リムルの目の前で正座する残念秘書と有能(仮)秘書に掻い摘んで説明し、これはプライベートな問題であって、秘書業務に関係するものではないと示したのだが、二人は依然としてベニマルを殺さんばかりに睨んでいる。
「お前らの仕事と、ベニマルと俺のプライベートは無関係だし、個人としても、他人の関係性について口出しするのはどうかと思うけど」
「ですが、リムル様! ベニマルは現在アルビスやモミジといった女達を筆頭に求婚されている身! リムル様を裏切っているのでは?!」
 ベニマルにやましいことなど一つもないのにこの手の事では奥手だからか、口どもっているので、シオンがやけに強気で攻めてくるのがまた面倒だった。
「ベニマルが嫁を取ろうが取らまいが、俺はベニマルに裏切られたなんて思わないよ」
 そもそも恋愛感情は皆無なのであるから、浮気も何もないのだと説明したいし、モミジとアルビスが嫁戦争を勃発させてからというものの、流石にリムルも遠慮してベニマルとは何もしていないのだが、好奇心でベニマルと同衾したとか快楽に負けて何度も寝たという現状を知られたら、秘書達がリムルの予測を超えた暴走をし始めるかもしれないと思い留まった。だが、秘書達がリムルの思いを考えて暴走しないという選択肢を選ぶことは今まであまりなかったし、今回も結局二人が暴れだすのを止めることができなかった。
「リムル様……あの女達に遠慮されるのですか? 身を引かれると?」
「えっ? そんなつもりじゃ……」
「ベニマルの嫁などどうでもいいですが、それが理由でリムル様がベニマルに振られるなどとは認められることではありません!」
「いや、振られてないって!」
 人の話を聞かない奴らだというのは前から知っているが、これはどうすれば? という助けを求める問に智慧之王が「個体名:ベニマルに伴侶を持たせるべきです」との回答があった。確かにそれはそうだろう、しかし現在進行形でベニマルの正妻の座をかけて戦争勃発中なのに? とぐるぐる悩んでいたら、ベニマルが耳を赤くしながら口を開いた。
「オレはリムル様さえ良ければ、リムル様の伴侶になりたい」
 その発言を聞いた途端、目の色を変えたシオンとディアブロがベニマルに襲い掛かったので持ちうるスキルの全てを駆使してベニマルを守りつつ二人を拘束した。普段は周囲がおかしいので比較的まともに見えるベニマルだが、偶におかしなことを言い出すので警戒しておかなければならないのを、どうしても秘書達の暴走にかまけて忘れてしまっていた。
「とりあえずこれは俺とベニマルの話だから! 口出ししないでね!」
 リムルはベニマルを連れて庵を出た。

 所変わって、ベニマルの家に辿り着くとリムルは勝手を知っているので飲み物を用意して、飲み干し、それからベニマルを睨みつけた。
「お前なあ、冗談言うときは状況と相手を見てからにしろよな」
 この国の魔物は、冗談を冗談として受け取ってくれないことが多いほど、他人の言葉を素直に受け入れる。ましてやあのディアブロやシオンはリムル関係になると過剰反応するので、あの手のジョークは全くだめだった。そういう空気が読めないような男ではなかったはずだが、とリムルが首を傾げていると、真正面から抱きしめられる。正妻戦争が始まる前にはよくやっていたことだが、今はそんなことをしている場合ではないと叱ってやろうとして、ベニマルの顔を見て驚いた。
「冗談なんか言うかよ」
 ベニマルが顔を赤くして真面目な調子でリムルの顎を持ち上げる。今までの軽い好奇心の延長線上の行為だと思っていたのに、ベニマルはかなり真剣な様子だった。過去に見た大人のビデオを再現してみたいと思った場合に相手として向いてるのがベニマルくらいだったという言葉は絶対言ってはいけないと直感した。
「でもモミジやアルビスのこと、どうするんだ」
「リムル様を知らなけりゃ、多分どちらか選んでいたと思うが、リムル様を知ってしまった以上、他のやつは選べないな」
 顔が近づいてくる。拒もうと思えば拒めるのだが、何故だかその気が起きなくなってベニマルを受け入れる。唇が重なり、ベニマルの暖かな手が少しひんやりとしたリムルの体を抱き上げる。体格差はどうしようもないのだとしても、軽々と持ち上げられることには思うところがないわけではないが、ベニマルのキスが以前よりももっと情熱的で優しいことに気付いて、リムルはそちらに集中することにした。唇が何度も啄まれる事を知った時、洋画やビデオの中のキスシーンよりももっと官能的である事がわかった。それ以来、リムルがキスを好んでいる事をベニマルは言葉にせずとも分かっているらしく、しっかりと感じるまでキスをしてくれる。舌を絡ませ合いながら、互いの口の中の敏感な所を刺激し合う。そうしている間に、各種の無効スキルや耐性スキルを緩めると、じわじわとした何かがリムルを支配する。これを快楽と呼ぶのだと随分前にベニマルから教えられた。
 ゆっくりとベニマルの寝床に移動し、そのまま横たえられる。その間もキスは止まらず、余計なことを考える余裕もない。服を脱がされ、大きくて熱い手によって静かに、だが確実に開かれていくと、まるで女になったようでぞくぞくする。最初は間違いなく猥談が行き過ぎただけの行為だったはずだ。だが、ベニマルの表情が今までと違うように見える。生憎とリムルはそういうことは不得手で、ベニマルがはっきり言わない限りは分からないので、とにかくベニマルの動きに任せてしまおうとより一層キスを深めた。ベニマルはリムルの動きに応えて、リムルの体の奥に手を出してくる。擬似的なそれはこの行為のために作られたものなので、中で何をしようとも何かを生み出すことはない。だからか、ベニマルは遠慮することなくガツガツとむさぼり食うのだが、それまではやたらと丁寧にそこをほぐしてくる。痛覚無効はあるし、欠損することもないのでほぐす必要はないと説明したが、これをするとリムルの感度が桁違いになるのだと言われ、それ以来リムルはこの行為を密かに楽しみにしている。ベニマルは手や舌を使って、リムルの体を開こうとする。足でベニマルの頭を挟むと赤い髪が太腿に掛かって擽ったかった。そうしている内に、リムルは耐え難い解放感が近いことを感じる。転生して初めて知ったこの感覚は恐怖とも似ていて、何かに縋りたくて堪らなくなり、その度にベニマルの名を呼ぶ。その瞬間、何かの壁を超えたような、解放感が訪れる。これを感じたくて、いつもリムルはベニマルを付き合わせていたのだ。人間だった時にも自慰行為はしていたが、達すれば虚しさが襲って来て、早く恋人がほしいと思ったものだが、転生して以降はそんなことを思わなくなった。何しろ、この行為にはいつもベニマルが付き合ってくれる。達した事によって吐かれた息すら包み込むような優しいキスを繰り返されると安堵する。この感覚に病みつきになってしまって、ベニマルを何度も誘って繰り返してきたのだ。そして、擬似的な体の奥にベニマルが侵入してくるのを感じると過去の快感を思い出して身悶える。回数を重ねる度に、何もかもから解放されたような快楽は激しくなり、今までに感じたことがないほどの多幸感は長くなり、これ以上の快感を更に求める気持ちは強くなる。
 そんなリムルの気持ちを知らない筈なのに、ベニマルは的確にリムルの体をもて遊ぶ。思念伝達で共有した過去の記憶にある様々な知識すらも一緒に試してくれるし、リムルの体をリムル以上に知ろうとしているので、身を任せればあの快楽を得られると分かるから、全てをベニマルに委ねる。
 ベニマルが一番奥までやってきたのを感じた。やはりこの男のものはデカいから、普通の女なら耐えきれないかもしれない(同族なら別なのだろうが)。リムルはその点、可変なのでベニマルの好む狭さと長さを調整してしまえる。これについては便利だと思うものの、何故息子の方は駄目なのか、甚だ疑問であるが、今はベニマルの動きに合わせてやる方に集中すべきだろう。
 正常位でガツガツ来られるのは正直少々怖いのだが、ベニマルは対面座位も背面座位もバックも何もかも駆使してリムルの快楽を求めるので、それまでの前準備と思えば可愛いものだった。実は騎乗位の馬鹿さ加減が好きだと知られたら、多分それをフィニッシュにするようにしてくれると思うが、それを言うのは恥ずかしいので言ったことはない。ベニマルはリムルの思いつきの全てに付き合ってくれ、どんなに無茶な体勢でも必ずリムルの快楽を約束してくれた。これがリムルがベニマルとの行為をやめられない理由なのだ。やめなければならないのにな、と思考がズレた途端にベニマルが何故だかそれを感知したのか激しいキスと律動を始めた。それに応えるように舌を絡め、ベニマルに抱きついて、同じリズムで体を動かす。気持ちよくて、止まれない。これが人間の時ならば、体力が尽きるのも早くて、一度か二度が限界だっただろうが、この体では限界が遠すぎて最早無限にしていられるのが困る。しかも、体格差があるのでベニマルが体勢を変える時も繋がったままで弄ばれるので、息つく暇もない。
 正常位から対面座位になり、騎乗位に移って、ベニマルの上で踊る。上からずぼずぼと入れられるのも気持ちいいのだが、下から突き上げられる感覚は堪らないのだ。そこで一度ベニマルが射精した。腹の中に満ちる魔素はすぐに取り込んだりしない。精液まみれの方がベニマルもリムルもテンションが振り切れておかしくなれるので、正常な判断をかなぐり捨ててそのままにする。大人のビデオで、白いものが垂れるのを見て興奮していたのを思い出す。
 ベニマルは出したばかりで少し勢いが落ち着いたのか、息を荒くしてリムルを見つめている。キスして欲しいのだろう、とリムルは繋がったまま身を倒すと向こうから迎えに来てくれたので、ちろちろとキスを交わす。何もかもが快楽になる。
 その後復活したベニマルはお気に入りの駅弁でしつこくリムルを攻めてきた。何でも、全てをベニマルに預けている感じが物凄くイイらしい。確かに足を大きく開いて、落ちないようにひしとしがみついているのは、かなり男として興奮することだろう。リムルとしても宙に浮いた不安定な感覚の中、ベニマルのものが刺さってくるのは奇妙な興奮を覚えて、いつも以上に喘ぐから、かなり好きな方だと思う。快楽で頭が麻痺してるようにも感じるが、意識を失うことはないので記憶に残り続けるのが少し恥ずかしい。理性をなくしてひたすら快楽に耽る姿を覚えられている事も恥ずかしい。だが、今感じているこの幸福感を忘れることなど出来やしないだろう。また射精されてふくれる腹に満足してしまう。 
 その後も求婚している女達にリムルが遠慮していた期間の分だけ空いていた時間を取り戻すかのようにベニマルは激しくしつこくリムルに快楽を与え続けた。溢れ返る精液と唾液にまみれても、リムルはベニマルに抱きついて、離れることができなかった。
 その間、ベニマルは何度も「リムルが好きだから、伴侶にしてくれ」と懇願してきて、その度にリムルは悩んだが、喘ぎ声で誤魔化してしまった。ベッドの中でおねだりするのは女の方ではないのか、とも思うが、権力を持っているのはリムルの方なので仕方がない。
 ピロートークもそこそこに、孕まないから遠慮がないとはいえ何度も射精して疲れたベニマルが眠りにつくと、リムルはその寝顔を見ながら、腹の中の精液を取り込む。掻き出す必要がないのは楽でいい。ベニマルも何度目かでそれを覚えて後先考えずに無茶な事までしてくるようになったのは誤算だったが、何とかなるレベルなので見逃している。
 さて、ベニマルの伴侶問題にリムルが立候補することで解決するのは如何なものなのか。絶対にアルビスとモミジの心象が悪くなるに決まっている。智慧之王も同回答だった。でも、久しぶりに寝てみて、手放せないかも、と思ってしまったのも事実だ。この快楽、多幸感、安心感。どれを取っても、他の娯楽では得られないと既に分かっているし、相手を変えてここまでの興奮を得られるかどうか、それに比較してしまわないなどとはとても言えない。ベニマルの方がよかったと思ってしまうのは誰にとっても不幸なことではないだろうか。
 しかし、ベニマルに求婚している女全てを敵に回すほどのものなのか。あんまりグダグダ悩むと、穴が開くはずもない胃袋が胃潰瘍になりそうな問題だな、とリムルは溜息をついて、ベニマルの額にキスをした。

 その後、どこからかベニマルとリムルが寝ている事が全体にバレてひと騒動起きるのだが、今のリムル達に知る由はない。