筋肉フェチ - 2/2

後日

先日から恋人の嗜好に驚かされている宿儺は驚き呆れて物も言えなかったが、恵が思っていた以上に真剣な顔で頓珍漢なことを言っている現実を認めないわけにはいかなかった。
海外出張が多い宿儺は勿論家を空けることが多い。同棲前からもそれは分かっていたが、同棲してからはより寂しくなり、恵は色々と葛藤しつつ、「セックス中の宿儺を撮りたい」という思いに至ったらしい。どういうことだ。説明されても理解し得ないだろうから別にいいが、宿儺の想像以上に宿儺の筋肉が恵に愛されている。
「お前は自分のハメ撮りをしたいと言っているようなものだがいいのか」
「背に腹は代えられねえよ」
いや、だから何故そうなる。恵は以前よりも自分の嗜好を口にするようになり、今回も説得したいのか説明を始めた。
恵は宿儺の肉体の全てに惚れているが、勿論動いたときが一番興奮する。実用的なアスリートのような鍛え方を好む宿儺の肉体はしなやかで美しく、これ以上ないくらい素晴らしいとのこと。普段からアウトドアなデートが多いのも、そういう理由らしいのだが(確かにプールや海が多い)、セックス中は恋人とのひとときであることも勿論のこと(本当だろうか)、正常位では宿儺に覆いかぶさられて視界いっぱいに宿儺がいることと隆起する広背筋その他諸々に触れられること、騎乗位では首から腹までにかけての滝のように美しく流れる筋肉を眺めながら下から突き上げられるのがいいこと、そもそもセックス自体が宿儺の足腰の強さを感じて気持ちよくなることを白状した上で、恵自身の性欲の強さも説明された。
「宿儺と付き合ってから会う度にヤッてたし、同棲してからも時間が合えば絶対ヤッてたけど、お前がいないと自分で処理するしかないし……その、出来ればお前を見ながらしたい」
特に背中を撮りたいとまで言ってきた。背中はどう頑張ってもセックス中に見ることが出来ない。恵が宿儺を抱くのであれば見ることは可能だが、抱きたいわけではないし、宿儺の巨体にいいように抱かれるのも好きらしいので、そっちの方向にはいかなかったようだ。別に抱かれてやることには抵抗感はないが、恵がそう言うなら抱き潰してやろうとは思う。
しかし、恵が前、後ろ、横からの三面で撮影したいとまで言われので、恵が宿儺を抱く方が楽では? と一瞬考えた。しかし恵は宿儺に抱かれることを前提に話を続ける。
背中を撮影する後ろからのアングルはマストらしいが、全面は宿儺の顔も含めて全部撮影したいらしい。横からは、宿儺の体の厚さや前面背面からでは分かりづらくなるであろう筋肉のシルエットも全部撮りたいとのこと。いつにない情熱に、宿儺は少しばかり考えた。
要するに宿儺の不在が原因なのであれば宿儺が海外出張のない仕事に転職して恵のそばにいてやればいいだけの話では。宿儺は今の仕事になんの未練もないので、さくっと転職することは可能だが、そこまではいい、と恵は遠慮する。しかし、撮影したいほど寂しく思っているのを我慢させるのもどうだろうか。宿儺が珍しく真当な考えに至っているのにもかかわらず、恵の方が「だめか」と言ってきた。
「好きにしろ」
とりあえず今夜は一週間の出張から帰ってきたばかりで、恵を抱いて寝るということは宿儺にとっても決定事項だった。馬鹿馬鹿しいことに付き合うことになってもいいから、恵を全身で感じたい。
恵は了承を得ると、そそくさと準備をし始めた。タブレット、スマホ、カメラをベッドヘッドなどの家具の上に配置し、後ろの準備も終わらせると、宿儺をベッドルームに招き入れた。相当おかしなことをねだっている自覚はあるらしく、始終顔を赤くしている。常識的な思考を持つくせに、好みが少しばかり一般からズレるとこういう妙なことになるのだと宿儺は面白くなった。
服を脱ぐところから撮影したいと言われ、最早これはノってやるしかあるまいとカメラを意識した動きで脱ぐと、恵が宿儺を凝視した。以前から恵は宿儺を盗み見ていたが、先日の告白から遠慮が減ってきた。味わうように見られ、まるで捕食されるようで面白い。
撮影のために明るいままのベッドルームで、宿儺はカメラの方向を向いたまま、自慰をしてやる。恵はその隙に自らも裸になって、ベッドに乗り上がって、カメラの邪魔にならないところから見て、自慰をし始めた。そんな恵の腕を取って、傍に引き寄せて口付ける。いつも以上に興奮している恵を宥めるようにゆっくりとキスをしながら、恵のアナルに指を引っ掛けてやると、嬉しそうに指に尻を押し付けてくる。普段は禁欲的な顔をしているくせに、体は性的快楽に素直なのが可愛いところである。
そのうち恵を押し倒して、正常位になると、恵は足を大きく広げて宿儺を迎え入れようとする。筋肉が付きづらい反面、柔軟性があるので、どんな姿勢でも宿儺とまぐわえるのが恵のすごいところだ。体力もあるし、性欲も強い。感情的になりすぎることもないし、理想的なパートナーではある。隠していた好みもまあ許容範囲内だし、これを利用して宿儺も愉しめばいいだけのことだ。
宿儺に全てを躾けられた体は、宿儺のペニスをしっかりと飲み込む。どうせ撮影するならこういう挿入の瞬間ではなかろうかとも思いつつ、恵の首筋を撫でながらキスをし、目を合わせる。
気持ちよさにとろんと蕩けた瞳がきらきらとしていて可愛らしい。恵に更に惚れ込んだ理由がこれだ。こんな瞳の人間はどこを探したっていない。だから捕まえておきたくて、宿儺は付き合って早々に同棲を提案した。結局、仕事の忙しさなどにかまけて、提案してからずっと後に同棲を始めたわけだが、この男を他の誰にも譲る気はないと毎度見る度に思うのだ。
宿儺の背に回る手が快楽で縋っているのではなく、僧帽筋やら何やらに触れることでより興奮しているのだとしても構わない。この瞬間は恵は宿儺のことしか考えていない。恵の細い腰を両手でがっしりと掴むと嬉しそうに喘いだ。
「しっかりしがみつけ」
「あぁっ……やば、あ、まっ、っ゛!」
恵の前立腺を刺激するように大きく腰を振る。ガンガンと突き上げられることで恵はどんどんと快楽に溺れていく。声を抑えることも忘れ、リズミカルに揺れる体にあわせて言葉にならない叫び声を上げている。普段は明かりを消して行われる情事を明るい中で撮影しながら行っていることが恵のテンションを上げているのかも知れない。いつになく宿儺も恵を追い立て、早々にイかせつつも、勢いを止めることなく、恵の体により深く入っていく。先程は視線だけで捕食されるような気になったが、今や宿儺が捕食する側だ。じっくりと味わっている余裕もなくなり、食い荒らすように抱いている。それでも恵は気持ちよさそうに喘いでいるので、宿儺ももっと追い詰めたくなる。
恵が何度か射精した後、「も、げんかい……」と言いながら、腹の力を入れて、ナカをきゅっと締め上げた。外括約筋が宿儺のペニスを抱きしめているようで気持ちがいい。ゴムの中に射精しつつも、出し切るように腰を振れば、恵が甘ったるい声で啼いた。
暫く緩慢なキスをした後、恵は全ての撮影機材を回収して映像を確認し始めた。自分と恋人のAVを真剣に見ているが、注目しているのは筋肉である。タブレット、スマホ、カメラを全部確認し、まあ大体満足したという顔になったので、問題はなかったのだろう。
「俺のワガママに付き合わせて悪かったな、宿儺」
「なに、これくらいは構わん」
途中から撮影していることも忘れていたし、セックス自体は変なムードにならなかったので問題はない。前回のような忍耐を試すようなことにならなくてよかった。
とりあえず早急に解決しなければならない問題は宿儺の出張の多さだ。異動願いを出すか、適当な理由をつけて転職して、映像の中の自分ではなく生身の自分で恵を満足させたいと宿儺は決意した。