Twitter(ワンライ)まとめ - 2/7

罪悪感

(ハリポタAU / 伏黒が変身するディアケンタウルスかつ闇祓い)
「まーったく、どこに隠れてんだかね、両面宿儺は」
三日程風呂に入れていないせいでボサボサになった髪を掻き毟りながら悟が叫ぶ。事務所内の誰もが同じ気持ちだった。ここ数年、日本魔法界を騒がせている闇の魔法使い、通称両面宿儺を追いかけているのが悟のチームなのだが、全くその行方を掴めずにいる。半年くらい前までは派手に暴れていたのに、大人しくなっているのが不気味だと傑がうんざりしていた。
手元にある情報を元にあちこち飛んでも見つけられない。四つの瞳、二対の腕から両面宿儺と呼ばれているが、本名を掴めていない。そんな異形の名前が知られていないはずがないのに、誰も何も分からない。異形の理由は何かしらの魔法生物との混血だろうと予想されており、その線からも正体を掴もうとしているが、手掛かりなしだ。
「流石に今夜は帰ろう。事務所の空気が最悪だ」
それに今夜は新月だ。傑が恵を見た。
「んじゃ、今の作業止めて一時間以内に解散。当直だけ残って」
悟も恵を見た。申し訳なく思いながら、恵はさっさと片付けて一番最初に退出した。もうすぐ薬の効果が切れる。
姿現しでいつもの森に出る。人の気配が一切ない、魔法使い達の中でも知る者が少ないこの森は、月の出ない夜だけ恵の居場所だ。急いで服を脱ぐ。魔法で直せるとはいえ破きたくない。全てを脱ぎ去った頃、丁度体が変化を始めた。下半身が二本脚から四本脚に、額からはにょきにょきと角が生える。耳の形も変形する。筋肉量も増えた。理性が薄くなり、本能が強くなる。この解放感は、きっと誰にも分かってもらえない。ずっとそう思っていた。
体の下半分が牡鹿になった恵は、森の奥に進む。人の体と比べて何倍も高められた身体能力でその先にいる相手の気配を感じ取っていた。
本当なら裏切り行為だと分かっている。
だが、彼奴だけが恵の気持ちを理解できる。それを知った時、初めて孤独を自覚し、癒やされたのだ。ずっと、自分だけなのだと思っていたから、孤独を感じていることすら分かっていなかった。
育ての親である悟は不器用ながらも親身になってくれたし、本人が神話に出てくる英雄のように強いとはいえ、所詮は人間だ。恵とは違う生き物だった。彼奴は、恵と同じ生き物だ。
森の奥には男が一人いた。胡桃色の髪、二対の腕、四つの瞳。皆が血眼になって探している闇の魔法使い。恵も名を聞いたことはないし、名乗ったこともない。恵は彼を宿儺と呼び、彼は恵を子鹿と呼んだ。ちゃんとした呼び名は互いに不幸を齎すと分かっていた。
「今夜も深い闇だな」
「それでもお前の髪は目立つ」
二メートル以上の大男に近寄ると、顎を撫でられた。ペット扱いされるのは心外だ。手を叩くと、笑いながら口付けられた。今の恵は人の時よりずっと背が高いから屈まれなくてもお互いの顔が近い。本能がこの男を求めているのを感じる。恵からも口付けると、男は満足げに恵の角の付け根を指で触った。
「今宵はどうする」
恵の耳を触りながら問われて、甘美な方に流されそうになったが、慌てて伝えたかったことを口にする。
「宿儺、逃げたほうがいい」
「何故?」
「闇祓いがお前を追ってる。彼らはチームを組んでる。どれだけお前が強くても、どうなることか」
特に悟と傑は日本魔法界で最も強い。悟は箒がなくても空を飛ぶ。傑は信じられない程の数の使い魔を操る。彼らは無傷で今まで闇祓いとしての責務を果たしてきた。それでも宿儺と戦えばどうなるか分からない。宿儺にも言える事だ。
親のいない半人半獣を育ててくれた悟への恩義で闇祓いになった恵は、人間社会に対する帰属意識が薄かった。生きることも死ぬことも遠い出来事のように思う日もある。人にこの体の秘密を隠して生きているのは苦しい。同期の悠仁と野薔薇にも打ち明けられない。恵の事を知っているのは悟と傑と癒者の硝子だが、いつも年上の彼らに遠慮して本音を言えたことがない。感謝はしている。でも、目の前の男にするようには甘えられない。
苦しかったある日、恵はこの森で変身する宿儺に出会った。この時既に宿儺は悟のチームが追うべき対象だったが、恵はその事よりも自分と同じ存在がいる事で頭がいっぱいだった。
恐る恐る接触を試み、話をしていく内に本能がこの男に惹かれた。理性ではやばいと分かっている。裏切り行為だ。仲間にこの男の所在を伝えないで、逢瀬を重ね、心を寄せて。この前は体も重ねた。鹿の身体でもできないことはないと宿儺にマウントを取られた時、牡鹿である筈なのに酷く興奮した。何かしらの魔法にかけられていないかを調べても、何も出ない。あれらは本心からの行動なのだと裏付けられて、恵は動揺したが、納得もした。
「今更なことだ。何が来ようとも俺は背中を見せる気はない」
「宿儺、俺は闇祓いだ。俺からバレかけてる。上司が俺を疑っている」
言ってしまった、と後悔すると同時にとても怖くなった。宿儺は恵の事など知る必要はないと考えていたはずだ。ただ目の前の存在とそのまま向き合うだけで、邪魔になるような情報など一切無用。なのに恵からそれを口にしてしまった。
「ならば俺と共にくるか?」
「人を喰う趣味はない」
「お前の唇が他人の命で赤く染まるのはさぞや扇情的だろうに」
残念だな、と宿儺は笑う。宿儺はただ暴れたいだけで、国家転覆などは企んでいない。しかし、暴れるたびに人が死に、日本魔法界の存在が非魔法族にバレそうになるので、魔法庁が宿儺を殺したがっている。恵は宿儺の行為を許すことはないのに、ただただこの男と同じ時間を過ごしたくて、ずるずると関係を断ち切れずにいた。ここらで潮時なのだろうか。
「さてはて、闇祓いよ、ここで俺と死闘をするつもりはあるか?」
「宿儺……」
からかうように呼ばれる子鹿ではなく、先程告白した罪を指摘するように肩書を呼ばれて、思っていた以上に辛かった。煩わしい人間社会を二人の関係に持ち込みたくなかったのは、恵だ。
「ないなら、お前を食う。半人半獣の肉もまた美味いだろう」
宿儺は嘘をつかないし、口にする言葉は全て本気だと恵は既に知っている。ただで殺されるわけにはいかないと、流れた涙を拭って影から取り出した刀を構える。今の姿では杖よりも武器の方が扱いやすい。宿儺とは何度も手合わせをした。それがこんなことになるなんて。
「万が一俺が勝ったらお前を俺の影に隠す。ずっとだ。一歩も出させない」
「腑抜けたかと思ったが、随分と熱烈なことを言ってくれる。だが、負けてやるつもりはない」
宿儺が邪悪な笑みを浮かべて、弓を射るポーズをした。あまりにも美しくて、誰にも奪われたくなかった。

1