全部知ってる

 恋人の宿儺は超能力者だ。サイコメトリ、テレパス、サイコキノなどを扱えるし、その他の能力も持ち合わせているという。中でもサイコメトリの能力が強かったため、生まれ落ちる前から他人の思考と生きてきた男は、基本的に他人を信じず、蟻とも変わらぬ下らないものとして生きてきたらしい。ただ一人、伏黒恵を除いては。
 宿儺が恵を気に入った理由は唯一つ。恵の思考が読めないからだ。サイコメトリは対象の情報を読み取るというものだが、恵はアンチサイコメトリの能力があったらしく、恵が肌身離さず持ち歩いているものからも情報が読み取りにくいと知った時、宿儺は恵を猛烈に追いかけた。初めて知りたいと思った人間に執着した結果、宿儺は恵を独占したいという欲求に至ったという。
 恵は恵で、人間不信になりかけていた所に、テレパスを垂れ流しても平気な顔をして歩いている男と出会って面食らった。一般的に人間は自分の思考を隠したがる。全ては保身のためだ。利害が絡むだとか、相手を傷つけたくないとか、都合が悪いとか、様々理由はあれど、剥き出しで無防備な状態を攻撃されたいとは思わない。だから、皆思考を隠す。歪んだ欲求、怠惰な願望、見窄らしい小心を見せないようにしながら生きている。
 しかしながら、男は剥き出しで無防備なままの思考をさらけていても平気だった。男の思考は至ってシンプルだった。裏表がないからこそ垂れ流しにしていても平気なのだろう。そしてこの男に危害を加えられる人間はいないし、もしそんな人間が接触してもこの男は怯えることがない。何も守るものがないからだ。そういうわけで、頭に来るほど素直な宿儺を、恵はすぐに受け入れる羽目になった。
 そして宿儺の執着に独占欲のみならず、性的欲求が伴い始めた頃、恵はそれに触発されて宿儺を意識するようになった。最終的に宿儺のテレパスを間近で受け取る身の上の悠仁が耐えかねて、宿儺と恵の交際をお膳立てしたのが二人の始まりだった。
 今は恵のプライバシー保護のため、宿儺は二十年間垂れ流しにしていたテレパスを制御装置などを用いて決して誰にも知られないようにしているのだが、家に帰宅した途端それは外れる。家全体にアンチ超能力素材を使用しているから、隣人にテレパスを受け取られることはないし、何よりも宿儺の我慢の限界だからだ。
 玄関から解錠する音が聞こえた数秒後には激しい感情が漏れるのだが、リビングの扉を開いて恵の姿を見つけた途端、その感情が歓喜に変わり、恵への言葉に書き換わる。そんなことをされたら、恵だってニヤけそうになる。犬よりも感情が分かりやすい人間がいるとは思わなかった。
 宿儺と付き合い始めてからというもの、人間不信は多少和らぎ、心の余裕ができたのは、宿儺が始終この調子だからだ。付き合って一年経つが、一度だって宿儺が恵への感情を揺らがせたことはない。
 恵は恵で、決して読み取らせることができない自分の感情を、羞恥心を乗り越えて一つ一つ丁寧に言葉にすることで宿儺の信頼と愛情を確かなものにしてきた。恵だけが知っているなんて不公平だというもどかしさから、言葉にすることが苦手な恵も頑張ってきた。宿儺はそれに心打たれたらしく(悠仁は「本当にそれ宿儺の話? あいつにそんな心あったの?」と飛び上がっていたが)、二人は夜毎互いの嘘偽りのない、或いは誠実な言葉に酔いしれている。
 今夜も食事を終えた後、二人並んで食器を洗い終わり、目を見つめたら、すぐさま宿儺にスイッチが入った。
 明け透けな思考を聞かせながら、宿儺は恵を横抱きにしてキスを降らせる。恵もそれに応えながら、キスの合間に返事をするが、宿儺の愛情の洪水に流されて溺れてしまう。言葉が追いつかない。恵はテレパシストではないから、受け取ることはできてもこちらから発信できない。だから頑張って言葉にしようとするのに、宿儺のテレパスがいつも恵が言葉にするよりもずっと多く降り注ぐから、恥ずかしくて口を開けなくなるばかりだ。
 それでも、キスの合間に「宿儺かっこいい」とか「好き」とか「なんでもしてほしい」とか、喘ぎ声の中に混じらせて伝えると、宿儺のテレパスが止まらなくなる。
 この時の幸福感といったら。どんなに金を積まれようとも、地位を与えられようとも、この男の素直な感情に勝るものはない。テレパスを受け取るだけで恵の体は感じ入って、既に足の先まで震えている。確かに宿儺が帰宅するまでに用意をしているとはいえ、既に言葉だけでイッてしまいそうだった。
 寝室のベッドに二人して傾れ込み、キスを交わしながら、宿儺のサイコキノでするりと服を脱がされていく。この男は何でもかんでも超能力を使うんだから、と呆れながらも、それだけ早く抱きたいと思ってくれているならと嬉しくなる恵も恵だ。
 見えない力で持ち上げられた足の間にはもう既に限界を通り越して少し液体を漏らしている恵の陰茎と、人工的に濡れている縦に割れたアヌスが見えるはずだ。
 言葉をよく知る宿儺でさえもセックスの時は語彙が減る。だから、宿儺から即物的な言葉しか聞こえてこなくなったら、恵はどうしても口角が上がってしまう。
 恵が自らの手でアヌスを横に広げると、宿儺は無言でアヌスにむしゃぶりつく。初めの頃はもう少し二人とも落ち着いていた気がするのだが、最近では獣のように貪り合っている。目の前にすべてを許せる人が居て、何もかもを委ねられたならば、理性は吹き飛び、ただただお互いの欲を満たし合うことしか考えられなくなる。
 アヌスを食われている間に何度も絶叫しながら達する。叫べば叫ぶほど宿儺の心の声が煩くなるから、恵も負けじと声を張ってしまうのだ。恥ずかしくもあり、同時にこの気持ちよさを伝えたくて、この心ごと宿儺に見せてやりたいのに、恵はそのままの感情を伝える方法がない。だから言葉にしたり声を大きくするしかない。もどかしくて堪らなくなって、結局宿儺を求めて乱れる。
 宿儺は恵のアヌスを充分すぎるほどに解した後、凶悪なまでに勃ち上がっている陰茎をぺしっと何回か恵のアヌスに叩きつけた。宿儺の征服欲の現れであり、これから恵をめちゃくちゃにするという宣言だった。
 物騒なほどの欲求を、しかし恵は喜んでしまう。
「はやく……それ、いれてくれ」
 掠れた声で懇願すれば宿儺の陰茎はすぐに恵の中に入った。ぐうっと入ってきた陰茎の太さに震えてしまう。何度受け入れても最初は少し苦しいのに、その苦しみすら気持ちよくて、腹から背中を強烈な快楽が走った。やばい。
 卑怯なことにサイコキノまで使って恵の良いところを突き上げ、擦り付け、ぐいぐいと奥まで入り込んでくる宿儺の心にはもう言葉がない。互いの快楽を求めて貪る行為に言葉なんて生まれない。ただただ本能だけが存在して、夢中にさせる。
 ごぷっと音がして結腸に入ると、恵は今までにないほどの絶叫を響かせて気絶しかけた。実際には宿儺が気絶を許さなかった。
 キスをしながら、両腕で頭を覆われ、耳を塞がれる。唾液の混ざるぐちゅぐちゅという音、腹の奥を犯すごちゅっごちゅっという音、キスされて声にならない籠もった喘ぎ、そして宿儺の言葉にならない激情のテレパスが一気に脳に押し寄せる。助けを求めたいくらい苦しくて気持ちがいい。頭がぼうっとする。宿儺に苦しめられているのに宿儺に助けを求めてしまう。
 腰だけを器用に小刻みに動かし、恵の前立腺どころか、腹の奥すべてをごりごりに攻める宿儺の背中に腕を回してしがみつく。脚はサイコキノで宙に縛られたままだからその腰に絡めることができない。
 本当に酷い使い方だ。類まれなる才能を世のため人のために役立てることなく、この男は恵との快楽にしか使わないのだ。
 時々呼吸のために少しだけ口を離すが、二人共すぐにキスに戻る。舌をぐちゃぐちゃに絡ませて、互いを貪り合う。
 恵はもう何回も空イキしているが、宿儺は漸く射精したくなるところまで来たらしい。腰の動きがもっと鋭く深くなって、恵の奥の奥まで汚してやろうとしているのを感じる。自分の精液は五分以内なら気配を感じられるらしく、宿儺は恵の腹から自分の気配がするのが堪らなく好きだそうだ。透視能力すら効きづらい恵の腹の中を覗ける実感。唯一手に入れられないであろう相手を手に入れたと錯覚する瞬間だという。
 それなら、宿儺の精液が空っぽになるまで注いでほしい。いくらでもこの腹で受け止めてやりたい。恵の内側を見れない男に見せつけてやりたいのだ。どこまでもお前を求めていると。嘘偽りのないこの感情を行動で示したい。
 宿儺の陰茎が震えた瞬間、結腸に精液が勢いよく注がれた。すべてを押し込むような腰の動きが堪らなくて、恵はもう何回目かも分からない空イキで達する。足がピンと伸びて、背中を逸して全身に響く快楽を甘受する。気持ちいい。好きだ。もっとほしくなる。
 宿儺は少しだけ口を離した後、労りのキスを再び施してくれた。甘くて優しくて、すべてを受け入れた恵を褒めてくれるキスだ。このキスも好きだ。幸せな気持ちになれる。満たされる。このキスをしている間の宿儺の思考も好きで、癒やされる。
 お互いの気が済んだところで、ぷはっと口を離し、ゆっくりと宿儺の陰茎を抜かれる。ぞぞぞっという排泄にも似た感覚でまた恵は感じていたが、宿儺は完全に抜いて、足をおっ広げたまま、アヌスから精液を垂らしている恵を上から見下ろして嬉しそうにした。恐らく腹の中の自分の気配に満足しているのだ。
 かわいい男だ、と腕を伸ばせば、恵の腕の中に宿儺が収まる。
「こんやも…やばかった…すきだ、すくな」
 宿儺はより深い笑みで、恵に触れるだけのキスをした。
「お前こそが俺の唯一だ」

〜おまけ〜
 宿儺は時々恵の腹に放った自分の精液を、サイコキノで丸めて恵自身が排出するよう促すことがある。まるで産んでるような光景に興奮するのだとか。全く意味が分からないが、恵は宿儺に弱いので、頑張って産むことがある。
 今夜も恵の腹を撫でながら宿儺が難しい顔で何かを施していた。ああ、産ませたいんだな、と恵も体の力を抜く。腹の中で何かが形成されている感覚をなんと言えばいいのか分からないが、精液をこのままにしておくと悲惨なことになるので、出すこと自体は賛成だ。
 仰向けでM字開脚をさせ、宿儺は「見せてくれ」と強請ってきた。
 恵は枕にしがみつきながら、足を閉じずに腹に力を込める。排泄となんら変わりないはずなのに、宿儺の精液の卵を産むと思うと陰茎に血が集まる。宿儺が真剣な目で恵の腹とアヌスを見つめていることも興奮を煽る。
 じっくりゆっくりと下に降りていく卵が前立腺を掠った時、恵は大きく腰を揺らして少し射精してしまった。息を整えている間にも、宿儺は早く早くと目とテレパスで促している。だから、今度こそ直腸を通らせ、アヌスからにゅぽっと産んでやったら、「よくやった」とこれ以上なく褒めてキスをしてきた。宿儺の陰茎は先程と負けず劣らず勃起している。
「お前の腹から生まれてみたいものだ」
 宿儺が恵の臍を舐める。宿儺の分身を腹から産んでやってるのに、まだ足りないらしい。
 だから恵は宿儺の頭を撫でて、「何度でも産んでやるから、その分だけ抱いてくれ」と伝えてやった。

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