ピクニック

 ミレイが何かを突然言い出すのはいつものことである。イベント企画だったり、特に計画性のない外出だったり、何かにかこつけて生徒会の仕事をサボることだったり、内容は様々だが、ニーナにしてみれば昔からの付き合いなのですっかり慣れたことである。最近知り合った、というかミレイが会長を務める生徒会に入った同級生達も初めは戸惑いを見せていたが、元々お祭り好きらしいリヴァルや楽しいことを全力で楽しむシャーリーはミレイの時々よく分からない方向に暴走する言動にも喜んで乗っていくので問題なかった。ミレイが一番からかう相手であり生徒会副会長のルルーシュ・ランペルージの反対がいつも真っ先に聞こえること以外は。
 今日は天気がいいので、ピクニック日和よね、なんてミレイが思い付いたように言い出してもそれほどおかしい事ではないのだ。ルルーシュが少し眉を顰めていたが、結局粘られてごねられて、生徒会の面々は学園から出て自然公園へピクニックに向かうことになった。サンドイッチなどは途中のベーカリーショップで買うことになった。シャーリーが嬉しそうなのをリヴァルがからかっているが、彼女の想い人の頭の中には途中で立ち寄る店で買うより自分で料理する方が安上がりなのではないだろうかということしかなさそうである。ルルーシュはこの学園の中で最も綺麗な男の子だったが、多分一番主婦脳な生徒でもあるだろう。ついでに恋愛面には普段のような察しの良さを全く見せない鈍感であることはニーナも分かってしまっている。
 シミュレーションの途中であったが、ミレイは誰か一人でも生徒会のメンバーが欠けると少しの間不機嫌になる。恐らく本人も周囲も気付いてないし、不機嫌と言っても八当りするとか言動がキツくなるとか、そういう分かりやすいものではない。表情や態度になんとなく現れているかも、という程度である。ニーナだって意識して分かったわけではない、長い付き合い合ってこそだった。だからニーナも今回のお出かけに付き合うのである。楽しくないわけではないが、夢中になってる物事から引き離されると少し冷めるのは致し方ないことだった。
 よーし、行くわよー! とうきうきなミレイに続くのはリヴァルとシャーリーだ。その後ろをルルーシュとニーナはのんびりとついて行った。
 確かにミレイがピクニックを提案したくなるような穏やかな天気で過ごしやすそうだった。ルルーシュにナナリーのことを聞くと今日は病院で検査する日らしい。残念だなと思う。ナナリーは優しくて可愛い子だ、一緒にいても楽しい。気後れすることはない。ルルーシュが蝶よ花よと可愛がっているのも仕方がないと思う。ニーナにもあんな妹がいれば猫可愛がりしてしまいそうだ。実際にはミレイに昔から可愛がられる立場である。
 ルルーシュの贔屓しているベーカリーショップで各々好き勝手に購入した。何故ルルーシュの贔屓の店を選んだのかといえば、ルルーシュが巧みに先頭を突き進むミレイを誘導して安くて美味しいお店まで向かわせたのである。リヴァルやミレイも色々と候補をあげていたが、主婦歴七年のルルーシュの節約術及び原価計算更には誰も勝てなかったし勝つつもりもなかった。味に煩いルルーシュの選んだ店ならば間違いはないだろうと皆納得していた。シャーリーは多分これから毎日この店の前を通るようになるし、ある時は入店して何かを買っていくのだろう。何だかそんな顔をしているし、していなくてもすぐに分かる。乙女思考だから分かりやすい。
 自然公園はそこそこ人がいたが、それほど多くもない。親子連れやペット連れが見えて、微笑ましく思う。ミレイは早速大きな木に近寄り見定めると、ブルーシートを持っているリヴァルを呼んだ。
 二人が喜々として広げているのを見ながら、ルルーシュとシャーリーは何かを喋っている。ニーナはミレイに呼ばれてシートの上に座った。皆が買ったパンはシャーリーとニーナが運んでいた。
 パンはやはり美味しかった。流石はルルーシュの選んだ店だ、と三回くらい思った。ナナリーへの愛ゆえにどんどん主婦力の上がっていく彼に、シャーリーはどうアピールするんだろう。
 取り留めのないことを喋り、早く皆で酒が飲めるようになりたいとリヴァルが言った。一応飲酒は禁止されている。リヴァルとルルーシュ、ミレイはお構いなしに飲んでいるようだが、真面目なシャーリーとそこまでお酒に興味のないニーナは口をつけたことがない。二日酔いになるんじゃないかと思うと少し躊躇われた。
 食事を終えて少し遊んだあと、五人は帰路についた。高校生にもなってまだまだ落ち着きのない様子なので、ニーナは少し恥ずかしかったものの、皆が楽しそうなので何も言わなかったが、ルルーシュはあとから少し眉をひそめながら顔を赤らめていた。プライド高いもんね、と何となく納得してしまう。
 部屋に戻って一段落した後、パソコンを起動した。シミュレーションを再開させるためにいくつかのソフトを立ち上げる。
 この前、ルルーシュのいない時にミレイが病弱でなかなか学校に来ないカレン・シュタットフェルト嬢を生徒会に誘いたいと言い出した。なんでもまだどこの部活にも所属していないとか。本当に稀にしか登校してないので詳しくは分からないが、綺麗な子だったと思う。生徒会は一応不定期だから、彼女も参加しやすいだろうし、と言うのだが多分他にも事情があるのだろう。
 ミレイが生徒会にいるのは理事長との都合もあるから。融通がきくことも多いし、ミレイ自身が学園内のことを把握していることでアッシュフォード家の都合もいいのだろう。ルルーシュは妹のことがあって、定期的に集まる部活は避けたかったからだろうし、恐らく皆には知られたくない事情もあるからだ。リヴァルはミレイが好きなのとバイトの関係で。シャーリーはルルーシュが好きだから。ニーナはミレイが誘ってくれたからここにいる。
 ここはミレイが作った箱庭だ。社会に出れば怖いことも嫌なこともたくさんあるけれど、この学園の中ではそんな事も忘れて楽しくやりたいというのがミレイの中にある。ニーナはそれに救われながら、それによって苛立ちを覚えることもあり、でも結局受け入れる。
 この学園を離れるとき、ニーナはミレイがいなくても前を進めているのだろう。ミレイの作った夢の世界から、恐ろしい現実の世界に出ていくというのは、即ちミレイからの独立だ。
 でも、今日のピクニックや数々のイベントはミレイでないと思いつけない。ニーナには無理だ。しようと思わない。
 だから、ニーナは独立できるまでミレイに甘えているだろう。しかし、ミレイを甘やかすのもニーナの役目なのだ。