無題

 はたけカカシは生まれた時から女だ。父も娘として扱ってきたし、カカシの体には男性器はなく女性器がある。しかしながら、カカシはずっと女の体であることに違和感を覚えていた。自分は男の筈だと考えるようになったのは中忍になってすぐの頃だ。だが、より明確に自分は男だと認識したのは上忍になる少し前のこと、二次性徴が始まった頃だ。
 月経が来たり、胸が少しずつ膨らむようになってきて、自分の体と心が一致しないとはっきりと感じたのだ。同性だからとリンと任務先で一緒に着替えることがあっても恥ずかしくて決してリンの方を向けたことはないし、気まずくて仕方がなくていつも早く着替えてその場を離れていた。
 それらの結果として、自分は女の体に生まれた男なのではと考えるようになった。この時はまだ性自認と心身が一致しないという認識をしただけだった。
 成長するにつれて、自分が男ならば女を好きになるのだろうかと考えたが、そんな事はなく、女性に時折過剰な好意を寄せられても風が吹いているような程度にしか思えず、ならば自分は一体何なのだろうと人知れず悩んだ。
 男に言い寄られることも多かったが、「女」のカカシを好きだという彼らには嫌悪しかなく、いつも完全に拒絶していたので、周りからは男嫌いと言われ続けた。唯一、カカシが気を許すのはオビトだった。
 オビトは神無毘橋での一件を経て、カカシと随分心を通わせるようになった。カカシの左目にオビトの左目があることだけが理由ではない。カカシにとって心に引っかかり続けた父の死をようやく受け止められる言葉をくれた。父の誇りは損なわれないのだと教えてくれたオビトに、カカシは心から感謝していたし、岩の下敷きになったものの奇跡的に助かったオビトはカカシに喧嘩を売ることが減った。寧ろじゃれ合い程度の喧嘩になって、親友と呼び合うことができるようになった。
 男女ともに好意を寄せられ疲弊するカカシにとって、男女の関係ではないとはっきり言えるのはオビトやアスマのような心に決めた女がいる男か、修行しか頭にないガイくらいだった。その中でもオビトと共にいる時間は癒やしになった。修行の相手になり、或いは任務の合間の小休憩の暇つぶし相手になり、任務明けの飲みの相手になった。
 その関係に不安定をもたらしたのはリンの結婚だった。
 リンは昔カカシに好意を寄せていたことがあったものの、十四も過ぎると諦めたらしく、その後は医療忍術の習熟に努め、その折に出会った男と結婚したのだ。戦争の空気が抜けきらず、駆け込むような結婚が多い時期であったし、同期の中でも一番早い結婚だった。リンにとってオビトはどうしても仲間以上にはならなかったのだ。
 当然オビトは荒れに荒れた。ただし、カカシと二人で互いの家で飲むときだけしか荒れなかった。リンがオビトのことを聞きつけて気にやまないように、また、人妻になった彼女を思い続けるなんてことは世間的にはよろしくないという常識があって、そんなふうになってしまった。
 オビトが酔いすぎてリンリンと鳴き声をあげはじめるとカカシはうんざりした。嘆き始めると意外と長いので、適当な相槌を打って、心ゆくまで泣き言を吐かせる。翌日いつも二日酔いになるオビトも、数年経つと流石に諦めたらしいのだが、リンに子供が生まれたときはやっぱりまた泣いた。
 リンの子供にとってかっこいいおじさんになろうというように決意したのはもう少し後のことだったが、その頃から妙にオビトの肌が綺麗になり始めた。顔の左半分を眼帯が覆っており、右半分は岩に潰されたことによる外貌醜状があるのでわかりにくいが、肌理が細かくなったように見受けられた。化粧にでも目覚めたのかと思ったが、オビトの家にはそれらしきものはなかった。ただ、時々妙なニオイがしていたので、女でもできたかとカカシは考えていたのだ。
 現実は時折人の予想を超えたこと起きる。

「なあ、カカシィ、ちょおっと手伝ってくれねえかなあ……その、さ、これをさ、ちょっと入れんの……」
 オビトが手に持っていたのは控えめなサイズであろうディルドだった。

 それはオビトの家で飲んでいた時のことだ。飲むのを覚えた頃にリンの結婚騒動があったためか、オビトはいつも飲み過ぎるきらいがあり、酔いで理性を溶かしたオビトはいつもカカシにあることないこと、聞かせていいのかと思うことまで打ち明けるのだが、今回はさすがのカカシも度肝を抜かれた。
「何……それ……」
「いや、こう、聞いてくれるな! ちょっとさ、これをさ、オレのケツにちょおっといれるだけだから!」
「お前何言ってるか、わかってんの?」
「わかってんよ!!!」
 これはわかっていないなと酔っ払いの戯言として聞き流そうとしたのに、オビトは尚も懇願する。
 告白すらできずに終わってしまったリンへの恋心の行きどころがなく、吹っ切ることもできないまま悶々としていたオビトは何を血迷ったかアナルでオナニーをすることを覚えたらしい。何故そこで尻に行き着くのかとカカシは頭を抱えたが、オビトの嘆願と残念な経緯の告白は続く。
 アナルで気持ちよくなることはできたのだが、その時に使用していた前立腺のための医療器具だけでなく、男性器そのものの形をしたものを突っ込むことに対して興味が出てきたそうな。ただ、生身の男とやるつもりはないらしく、あくまでその形状であればいいそうで、しかし一人で入れるのもなあと思っていたところ、さっきカカシに手伝ってもらえないだろうかと思いついたらしい。カカシはオビトの頭を一発殴ってやろうかと思った。いや殴った。酔いは覚めてくれなかった。
「頼むよ〜〜〜ケツの準備はしてるからさあ〜〜〜」
「なんでしてるの? いや、言うな、聞きたくない」
「だめか? 先っちょだけでもいいからさ」
「お前、もうちょっと言い方ないの?」
 オビトがカカシに先っちょを入れるのではなく、カカシがオビトにオモチャの先っちょを入れるのだからセリフが間違ってるような気もするが深く考えたら負けだ。
 到頭鬱陶しくなって「入れてやるからケツ差し出せ」と言ったら、今更ビビったのか、オビトが恥じ入りだしたので、面倒になってきた。カカシだって酔っていたのだろう。
「お前さあ、そのオモチャでケツをグチャグチャにしてほしいんでしょ? 認めなよ、ほらさっさとやるよ」
 押し倒して服を全部脱がせると開き直ってオビトは自分で尻をほぐし始めた。横向きになり、体を丸めて指を使って尻の穴を触るオビトを見ていると、なんて間抜けな時間なんだろうとカカシは冷静になってしまう。
 カカシとオビトの間で恋愛や性的な話は一切なかった。オビトの恋はリンに向かってまっしぐらでありながら、その実、オビトはリンに思いを伝えることができなかった。伝えようとするのに、邪魔が入ったり、オビト自身が勇気を出しきれなかったりしたからだ。
 カカシはそれを茶化すことも励ますこともなかった。それはオビトだけの問題であり、オビトだけが立ち向かわなければならないことであったし、そこにカカシが立ち入っていいはずがなく、また立ち入ったところで事態を好転させることはできないだろうとわかっていた。
 リンはオビトを仲間以上に思ったとしても、それは弟のような助けてやる存在でしかなく、オビトを男として頼ることはないと理解していたからだ。リンは助けてあげるべき庇護対象ではなく、頼りたくなるたくましさを求めていた。励ましても茶化してもオビトの拙い恋はどうにもならない。リンはオビトが思っている以上に現実的な考え方の持ち主であり、夢見心地では生きていない。優しさと同時に合理的な考え方がある。そうでなければ戦場で適切なトリアージが行えない。
 オビトはその点、情緒の発達が遅い。男女差なのか、個人差なのかはわからないが、二人の精神的な成長スピードはずれていて、同じになることがなかった。
 その結果がこれなのだとしたら、カカシは自分に責任がないはずなのに何とかしてやるべきなのか、と悩んだ。
 理性の溶けているオビトは「んっ」とか「あっ」とか声を漏らしている。アナルばかり弄って男性器を握っていないのに勃起しているのを見て、人体の不思議を感じた。
「ね、オビト、どうしてお尻で遊んでるだけで勃起してんの?」
「ぜ、前立腺、刺激したら、あっ、勃起、すんだよ」
「そうなんだ、じゃあ、お前が満足するにはケツにオモチャ突っ込んで、今のお前の動きみたいに動かして、前立腺を刺激すればいいわけね」
「恥ずいからはっきり言うなよなあ!」
「見られながらヤッといてよく言うよ。ほら、そろそろいいんじゃないの?」
 ローションをダラダラと掛けてやったオビトの男性器よりは細い薄ピンクのディルドを見せると、オビトは不安と期待の顔を見せた。その表情は十何年も共にしてきたカカシも見たことがない、性的にとろけきった顔だった。なんと言えばいいのかわからないが、その顔をじっと見ていると、オビトが「は、早くしてくれ……」とゴニョゴニョ文句を言ったので、オビトの尻の穴にぴったりと添える。
「入れるよ」
 オビトが頷く。オビトのアナルに少しずつ入れていきながら、恐らく前立腺とやらがあるであろう箇所を刺激するように動かしてやると、オビトは体を丸めたままビクビクと体を震わせている。
「どう? 満足した?」
 入れるという目的だけは達成したのだから、解放してほしいとカカシがうんざりしながら訊くとオビトはもじもじし始めた。まだ続きをしろということなのだろう。
「も、もっと、」
「え? 何? 聞こえない」
 わざとだ。オビトにカカシは気乗りなわけではなく、あくまでオビトの意思でこんなへんてこなことになっているのだと自覚させなければならないし、オビトの口から恥ずかしいことを聞きたい気持ちもあった。
「もっとしてくれ……!」
 まだ恥ずかしさがあるのか具体的なことを中々口にしない。性行為で何をするのかをカカシは愛読書で知っているが、とぼけたまま、オビトに尋ねる。
「は? もっとってどれのこと? オモチャを入れること? 動かすこと? それとも別のこと?」
「だ、出し入れして、あと動かしてほしい」
「なるほどね、まあお前の頼みなら聞いてやるよ」
 ほら四つん這いになって、とオビトの体を動かす。尻を突き出させ、オモチャの入ったままのアナルの入口を指で拡げてやるとオビトが僅かに反応した。
「オビトのお尻、ちょっと触るだけで反応しちゃうんだね。可愛いじゃん」
「可愛かねえよ!」
「そう? エッチなことしたくてうずうずしてるのに、可愛くないわけないでしょ」
「そ、それは……」
「期待してるんでしょ? 親友の手でオモチャを使って気持ちよくなりたいんでしょ? ほら、素直になりなよ。開き直った方がもっと気持ちよくなれるんじゃない?」
 カカシの言葉で追い詰められていくオビトは、到頭「早く……」とだけ返した。元々カカシと議論すればいつも不機嫌になって負けたことすら認めない男だ。その態度には慣れているし、すなわちカカシの言い分を認めざるを得ないということだった。
「人に頼むには不十分な言葉じゃない? まあいいけど」
 ディルドをゆっくり引きずり出し、またゆっくり入れる。オビトの肛門でトラブルが発生して病院に運ばれたら、リンにこの醜態を知られるかもしれないという懸念からの行動だった。ケツで気持ちよくなろうとして馬鹿なことをしましたなんて憧れの女性に知られたら、オビトも首を括るかもしれない。この行為を他人に悟られるわけにはいかない。
 ただ、オビトはその動きだけで気持ちいいのか、体をビクビクと反応させながら尻を突き出している。それを可愛いと思ってしまった自分がいることにカカシは気付いた。自分の行動に反応されたからでは、犬猫が撫でた時に反応を返してくれると嬉しいのと同じようなものではないか、と落ち着こうとしたが、ちょっと強めに前立腺を刺激してしまった時、「ああっ!」と大きめの声を漏らして、射精して、力が抜けたオビトを見て、カカシは興奮しているのだと認めなければならなかった。今までどんな相手にもこんな気持ちを抱いたことはない。もっと触って、どうなってしまうのか、見てみたい。
 放心状態のオビトをひっくり返して仰向けにする。オビトは不思議そうにしていたが、カカシがオビトの足を思い切り広げさせて、オモチャをまた出し入れすると「やめ、やめろって、イッたばっかり、ああっ」と抵抗し始めた。
「なんで嫌なの? イッたばっかりで敏感なら、もっと気持ちいいんじゃないの?」
 剥き出しの乳首を触るとオビトは背を反らした。もっと触れってことかと、ちょっと摘んでやるとオビトは気持ちよさで体を震わせている。あまりにも性的なことに素直な体だ。
「オビトはお尻と乳首で気持ちよくなるなら、女抱けないんじゃない?」
「別にいい、抱けなくていい……」
 リンを抱くこともないまま、気持ちのいいことだけ覚えたオビトは歪んでいる。そのことを自覚していなさそうなあたりがまた問題だ。リン以外の相手でいいから幸せになろうとは思わないのか。
「一生お尻を一人で慰めるってこと? それでいいわけ?」
「お前に関係あることか?」
 オビトの沈んだ声を聞いて、カカシはイラッとした。
「オビトが幸せになるのを見たいって思うのはおかしなことか?」
 尻に入れたディルドをぐりっと動かすとオビトが啼いた。大胸筋を女の胸のように揉んでやる。初めての感覚だったのか、オビトはびっくりしているが、カカシは遠慮なくオビトの胸から、首筋、耳、頬を触る。敏感なオビトは撫ぜられるだけで反応している。可愛い。そうとも、この行為の最中、オビトは可愛いのだ。
「どんなに強がったって、お前が孤独を嫌がってるのは見え見えなんだよ」
 耳元で囁やけば嫌そうな顔をされた。だが、事実だ。オビトは常に強がりで、いつも見栄を張っていた。忍者としての実力はその見栄に釣り合うくらいに強くなったが、孤独に対する諦念とあがきは見ていて虚しかった。親を知らないオビトは家族を求めているのに、唯一願った女性はもう遠いところで別の相手と幸せに暮らしている。星の数ほど女がいてもオビトにとっては女はリンしかいない。ならばカカシは女としてではなく、別の形でオビトの隣にいればいいわけだ。オビトの中で半神格化されつつあったリンと張り合うつもりはさらさらない。
「オビトが寂しくならないように、オレがこうやって抱いてあげるから、その間に幸せ見つけてよ」
「おま、何言って……あッ、やめ、ああッ!」
 ディルドの出入りを激しくして、前立腺も乳首も刺激してやるとオビトはまた快楽の波で溺れ始めた。
「冷静に考えちゃだめだよ、オビトは感じてればいいの」
 ああ、男性器があれば、両手と腰でオビトを気持ちよくしてやるのに、とカカシは自分の体にイライラする。それでも素肌で触れ合ったほうが気持ちいいかもしれないと、今まで脱いでなかった服を放り投げた。AAサイズのブラジャーなんて周囲がうるさいから着けていただけだったが、オビトはカカシのブラジャーにビックリして目を逸らしたのでからかい程度にはなったらしい。女の体であるためか股が濡れているのを感じたがどうだってよかった。そこを使うつもりは一切ない。
「お前のその顔、可愛いよ」
「かわいく、ねえ、よ!」
「自分の顔は見えないからそう思うのは仕方ないね。でも可愛いよ」
 カカシの与えた刺激でとろけていくオビトは可愛い。どうしようもない事実だった。
 オビトはカカシに翻弄され続けて、結局3回も達してしまうと寝てしまった。疲労が凄いのだろう。明日の任務に支障がなければいいなと今更心配した。
 泥のように眠るオビトに顔を寄せる。歪になった右半分と義眼を入れている左目に口付けた。オビトは目を覚まさない。忍者としてそれはどうなのかと思うが、オビトらしくもあって、微笑ましくなる。
 もうカカシはオビトをただの親友としては見れないのだろう。オビトがどのようにカカシに向き合うかはわからないが、この間抜けな男のペースに合わせて自分のものにしてやろうとカカシは決意した。