着衣/贅沢な休日 - 2/2

贅沢な休日

夏の初めの日に窓全開の中いちゃつく話です。ただのえろ。

 仕事のない休日に、こんなにごろごろできるなんて、と恵は窓際の影になっているところに寝転がって微睡んでいた。
 何にもやる気が出ないので、読書も家事もやめて、ただぼうっと窓の向こうに見える青空を眺めている。7月の半ば、まだ扇風機だけで過ごせる気温なので、全開にした窓から外で子供たちが遊ぶ声が聞こえる。元気なものだ。時折風に揺れる葉の音とか、車の走行音が聞こえるだけで、まだセミの鳴き声も聞こえない季節の贅沢さを感じる。
 そう、あまりに贅沢だった。一ヶ月にわたる夏休みのなくなった社会人にとって、夏季休暇は旅行を詰め込んだり、帰省したりと忙しないものになってしまう。だから、学生時代のような、ただぼんやりするだけの夏休みなんてものは遠い存在に成り果てていた。
 しかし今、子供の頃のような、無駄な時間を過ごしている。随分と贅沢なことだった。明後日には出勤する、ただの完全週休二日制で得た休みをこんなに良いものと思えるのは何だかお得だった。
 窓側に体を横向けて夏を見ていると、宿儺が近寄ってくる気配がした。Tシャツと下着だけの姿をだらしがないと窘められるだろうかと思ったら、少し頭を撫でられて、そのまま下着をずらされた。ああ、やる気なんだなと分かったが、今はまだ恵がそこまで付き合う気になっていない。
 協力することもなく寝転がっていると、片足をずらされてアナルを舌で舐められた。昨日もしたのに、本当に元気な男だ。舌がアナルの縁をなぞり、少しずつ出入りする感覚に、微睡みがどこかへ消えていく。贅沢で無意味な休日が少しずつ熱を帯びていく。宿儺のもう一つの性器といっていいんじゃなかろうかと常に思っている長く太い舌が、恵の前立腺を刺激する。唾液にまみれた尻を貪る男を止める気がなくなってきた。
 宿儺は恵の下着を足から抜くと、仰向けにして恵のペニスを口に含んだ。先程から一言も喋らないのは何故なのだろうと思ったが、そういえば窓を全開にしているので、外の音が丸聞こえなのと同時に、中の音も外に漏れてしまうのだった。
 無論、宿儺は恥じらいを持っているわけではなくて、夏の静けさの中で無言でセックスをすることに楽しみを見出しているようだった。また、恵が決して外にこのふれあいがバレないようにしたいと思っていることは重々分かっているのだろう。慈悲深くはないが、恵を蔑ろにすることもない、奇妙なバランス感覚が今の二人の関係を形成している。
 ゆっくりと刺激を与えられるもどかしさと、普段は感じられない気持ちよさに恵も身を任せてしまった。いつもは宿儺の激しいペースに翻弄されているが、今はこの緩慢な夏の空気に感化されたのか、全てがスローだった。それがまた非常に頭がおかしくなるほど気持ちよかった。
 宿儺の口内でねっとりと可愛がられるペニスと、宿儺の指でじわじわと拡げられるアナルの両方の、弱火で炙るような焦らしに恵は徐々に陥落している。偶にはこういうのもいいかもしれない。体力を使い果たすような激しいセックスもいいが、味わわれていると感じるような触られ方もいい。いつもは恥ずかしい言葉をかけてくるのに、黙ってただ笑っているのも不思議な緊張感が出て、どきどきする。今、宿儺は何を考えているのだろう。今の反応は気に入っただろうか、次にどう触れるか考えているのだろうか、恵の心の内を覗いてしまう洞察力で、何もかも分かった上で恵の頭を宿儺でいっぱいにしようとしているのだろうか。そんなことをされずとも、恵は既に宿儺の事を忘れる瞬間なんて無いくらいだというのに。仕事中でさえ時々思い出しては早く家に帰りたいとさえ思う。
 恵が小さく「あっ……」と声を漏らして射精すると、宿儺は口で全てを受け止めて飲み干し、持ってきていたらしい1Lのペットボトルの水を飲んだ。その後、水をもう一度口に含んで、恵に口付ける。水分補給の方法として正しくないだろうが、恵を口を開いて宿儺から与えられるものを受け入れる。少しだけぬるくなった水で喉を潤したあと、ゆっくりすぎるくらいのキスを交わす。宿儺の後頭部に手を回して、ぐっと引き寄せて、口の奥まで迎え入れる。
「随分と我慢強いな」
「外に丸聞こえは嫌だ」
「案外聞こえないかもしれないだろう」
「都会のど真ん中ならまだしも、こんなところだったらすぐバレる」
 都会は生活音がうるさいし、エアコンを稼働させるために締め切っている家庭も多いだろうが、この近辺で今ぐらいの季節に稼働させている家庭なんて数えるくらいだろう。汗もかかない程度の気温なら窓を開けていたほうが気持ちがいい。そんな中でセックスをしている二人が馬鹿なのだ。
「聞かせてやったらいい」
「俺はお前以外に聞かせるつもりはない」
 鼻頭に唇を押し付けると、宿儺は気分が上がったのか、恵の上半身からTシャツを剥ぎ取り、首筋を舐めて体を絡ませてくる。顎を擽る宿儺の髪を撫で、夏によるものではない暑さと熱を抱きしめる。ゆっくりと宿儺が胸部に移動して乳首を弄るが、それすらももどかしいくらい優しい。さわさわと触れるだけといっていいくらいで、いつものような刺激が欲しくて腰をくねらせそうになるが、外から子供の声が聞こえて、我に返る。
 不健全すぎる。いや、やめるつもりもないのだが。かなり高ぶってきたから出来れば最後までしたい。でも声を漏らしたくないし、激しくされたら絶対叫んでしまう。夜は完全に締め切っているからいいが、こんな昼中にご近所にバレたくない。皆顔見知りだから、何かあればすぐに共有されてしまう。女達の噂の速さを舐めてはいけない。特に幼い頃から住んでいる土地だ、商店街で会った時に何か言われでもしたら引越したくなる。
 宿儺は恵の葛藤などどうでもいいようで、好き勝手にする。そういう強引さも嫌いじゃないが、待ってくれと言いたい。同級生の子供とかに聞かれでもしたら羞恥で死ぬ。
 幸いなのは、宿儺が激しくするつもりがないことだ。今もちろちろと乳首をじっくりと舐めるだけで、甘噛すらしてくれない。でも今、その硬い歯で弄ばれたらどうなることか。声を抑えながら、でも宿儺の後頭部を胸に押し付けるように手を這わす。いつもオールバックにしている髪が汗で少し濡れている。刈り上げられたところを触っていると気持ちがいい。
 そんな恵から離れるように、少しずつ宿儺が降りていく。大胸筋を揉みながら、少し割れた腹筋の一つ一つを口づけて、へそを執拗に舐める。そのしつこさはアナルの時と同じだが、へそには奥がない。ぐいぐいと舌で押される感覚に頭が変になりそうで、腰が逃げる。口を開いたら「やめろ」と言いたくなるだろうが、結局それは「やってくれ」と言っているようなものだ。絶対に言えない。もどかしい刺激に恵のペニスは早くと泣いている。でも外から聞こえるバイクの音で我に返ってしまう。
 こんなセックス初めてで、どうにも集中できないし、もどかしいし、いつもは酷いほどの激しいセックスが恋しい。しかし、同時に、学生時代を共にしなかった二人が、高校生の夏休みをやり直しているような奇妙な気持ちにもなってきた。
 だって、宿儺と学生時代に付き合っていたら、絶対に家族のいない間にこうして抱き合っていた。宿儺の家なら、悠仁が帰ってくるまでの時間を急くように、恵の家なら津美紀が友達の家に泊まりに行った夜に、高校生らしく欲望に任せていただろうに。
 現実はそうではなくて、恵はとても健全な高校時代を過ごした。あの頃はこういったことに対して嫌悪感が強く、同級生がしているのを知ったら顔を歪ませていただろう。でも、こうして淫らなことをしてもよかったんじゃないかと今は思う。だって、こんなに幸せで、満たされている。同じだけの感情で抱き合うことは気持ちがいい。今日はちょっとイレギュラーではあるけれども、それでも宿儺は恵を蔑ろにすることなんてありえないし、今もシチュエーションを二人で楽しんでいる。
 唇をしっかりと結んで宿儺のゆるやかでじれったい刺激を感受する。腰のあたりを大きく熱い手が然りと掴むのにさえ、びくりと反応してしまった。宿儺がふっと鼻で笑うのを感じた。いつもと違うから、恵の羞恥心も反応も普段以上だ。
 執拗に足の付根を親指でなぞり、それ以外の指が尻の方を触る。真ん中で主張している恵のペニスには触ってくれない。さっき咥えられたから、もう一度触られたくて仕方がない。宿儺の舌で裏筋も鈴口も翻弄されて、もう一度達したい。無言で腰を宿儺の顔に寄せるように浮かせたら、「行儀が悪いぞ」と笑われた。
「ドライで行け。声を漏らさずに済むぞ」
 確かにいつもドライだと声を出すことも出来ないで達してしまうが、今それを言うかと睨んでやった。宿儺の意思を変えることはできないらしい。仕方がないから、前は諦める。その代わりと腰をねじって尻を見せると、「分かった分かった」と片足を持ち上げられて、アナルを舐められる。宿儺の頭の天辺に触れながら、その刺激を楽しむ。時折、会陰を指で押されてイきたくなる。
 また外から誰かの会話が聞こえる。子供を呼ぶ母親、犬の鳴き声、鳩の羽ばたく音。もったいないくらいの穏やかな日常の中で、恵は男にはしたないことをされているし、それで喜んでいる。
 人間って変わるんだな、と改めて思う。もう宿儺に抱かれないことを想像することが出来ない。
 ある程度満足したらしい宿儺が体を起こして恵とキスを交わしながら、自らのペニスをしごいて、恵のアナルにピタリと先端をあてがった。もはや宿儺を受け入れることを待ち望んでいるアナルがヒクヒクとしているのを見られている。羞恥心はあるが、同時に煽られてくれとも思ってしまう。
 だめだ、窓が開いているんだから。聞かれたらどうする。こんなことならスマートホームデバイスでも導入すべきだったのか? 馬鹿馬鹿しいことを考えながら、宿儺のカリが恵の体内に入ってくるのを感じて、声を抑える。
 だめだ、何かで口を塞がないと声が漏れる。気持ちよすぎる。宿儺とのセックスで気持ちよくなかったことなんて無いけど。一度服を着たままヤッた時だってとても気持ちよかったし、今もいつもより落ち着いた愛撫をされ続けて、非常に積極的な気持ちになっている。早く中で暴れてほしい。
 なのに、ゆっくりと初めての夜のように慎重に進まれてしまって、恵のもどかしさは徐々に羞恥心よりも勝って、早くと叫びたがっていた。いつもはもっと強引なのに!
 全部入れるのに10分は掛けたんじゃないかと思わされるくらいゆっくりだったが、全部が入って宿儺の陰毛が恵の体にピッタリ当たるくらいになると、口を開けたまま枕に頭を押し付けて我慢していたせいで枕が唾液まみれになっていた。宿儺とセックスするといつも洗濯物が増える。枕カバーの下まで浸透していそうだ。
 そのまま、ゆっくりと抜き差しするのではなく、体を揺さぶられる。前立腺が泣きそうなくらい刺激されて、恵は必死に唇を噛みしめるが、声を出したくて仕方がない。喘がないと辛い。我慢できない。
「すくな、正面……、来てくれっ……」
 横向きの状態では宿儺を抱きしめられない。腕を伸ばして強請れば鼻で笑われたが、宿儺は挿れたまま体の向きを変えて、正常位になってくれた。嬉しい。両腕で抱きしめて、もう一度揺さぶられながら心地よさと幸せを感じる。
 この人以外いないと思った相手と同じ気持ちで過ごせるのは、実はすごいことなんじゃないか。こうして抱き合っていても虚しさを感じるどころか、熱いものがこみ上げてきて、貪欲になるのは幸せなことではないか。
 その相手が宿儺であったことは恵にとっても意外すぎるが、今はこの男しかいないと確信している。
 いつもは怒涛の快楽に溺れそうになるが、今は波打ち際で戯れるような可愛らしい快楽だ。普段は見る余裕のない、恵を抱いている宿儺を見つめる。男らしい顔がいつも以上にかっこいい。宿儺は恵の視線に気づくと口角を上げてキスをしてくれた。ちゅっちゅっと交わされるバードキスも偶にはいい。
 その間、恵を焦らしていた宿儺の腰の動きも少しずつ早くなり、お互いに高まっていく。
 熱い。暑い。アツイ。
 堪らない気持ちになってきた。セックスをすると感情がとろけて、隠しているものが曝け出される。恥ずかしいのに知ってほしい。普段伝えきれていない感情をわかってほしい。
 宿儺の名を小さく呼びながら、達する瞬間を心待ちにする。ぐぐっと宿儺が恵を犯すのを感じるのが最高だった。
 イくと思った瞬間、恵は宿儺の顔を引き寄せて、思い切り口付ける。ドライじゃない方だったのだ。びゅるっと飛び出た恵の精液が二人の腹を汚す。とりあえず、大声で叫ばないで済んでよかった。
「ん、はっ、いい……」
「そうかそうか、そんなによかったか」
「……今度は窓全部閉めてからにしろよ――あっ、こら、ああっ、うご、くなぁっ……!」
「俺がまだだろう。付き合え」
 だめだ、絶対声が出る、と恵は宿儺に縋り付いてキスをする。口が塞がっていれば大きな声は出ない。宿儺は絶対それを分かっていて今こんな酷い仕打ちをしているのだ。
 口付けながら宿儺の首に腕を回し、腰に足を巻き付けて、アナルで宿儺を受け入れている。縋っていないと溺れそうだった。
 遠くで救急車のサイレンがなっているのを耳にしてしまう。宿儺に集中したくて仕方がない。
 やっぱりスマートホームデバイスを買う。絶対買う。気になって仕方がない。社会人は仕事の合間に生活をしているのだ。更にその合間に恋人と時間を共有しようと努力しているのにこんなに集中できないなんてふざけている。宿儺がその気になったら全自動で全部の窓を締めてクーラーを付けて環境を整えてやる。
 ぎゅうっと腹を締め付けて、宿儺の射精を促したが耐えられてしまった。このバカは普段全然我慢しないのにこういう時だけ我慢強いのがずるい。
 「早くイけ」とばかり括約筋を思い切り動かしたら、漸く宿儺がナカに出した。イった余韻のままキスしながら、宿儺がナカで擦り付けるように腰を動かす。マーキングのように思えて、恵はその動きが好きだった。
「は、はあ……今日はマジでもうしないからな」
「……」
「返事しろ!」

 後日、スマートホームデバイスを導入したが、その頃には外気温が36度を超えるようになったので常に窓を締めていたのであまり意味はなかった。
 こうして贅沢な休日はたいへん儚く終わったのだった。

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