夏の気怠い空気と燦々と照っている太陽の光が人々の汗を垂らしている。イタリア、ネアポリスの夏は暑い。この前やってきた業者が酷く下手くそで、エアコンが仕事をしていない為に、窓を開けていても閉めていても大して室温に変化がないのが恨めしい。あの業者、本当に役立たずだった、とジョルノが舌打ちするとミスタが嫌そうな目でこちらを見た。あんたの事じゃないさとばかりに無視して手元の本を読んでいれば、ミスタも舌打ちが自分に向けられたものではないと気付いて銃の結合を始めた。汗が銃身につくと錆びるからと言ってこのクソ暑い時に手袋をしながら作業しているのには素直に感心した。女と銃の扱いだけは人一倍丁寧な男である。
*
金髪の美少年は、依然として小さなベランダにピッタリ収まっているソファに腰掛けて何やら本を読んでいる。窓の外から差し込む光とそれによって生まれる影、ジョルノ・ジョバァーナがそもそもダビデ像のような美しい造形をしていることもあり、彼の姿はまるで一枚の絵画のように完璧で美しい。光と影、彩り、輝く黄金の髪と象牙の肌、イギリス人の父親と日本人の母親のいいとこ取りをした顔立ちゆえ、鼻は高く、彫りは深すぎず、鼻筋はすっと真っ直ぐに通り、唇は厚く、顎は控えめだ。膝を立て、肘をついて顎を乗せ、さてこんな暑い夏の日はどうやって時間を潰そうかしら、暑すぎて外に出る気も起きないわね、と澄ました貴族のお嬢さんのような気怠げで奇妙な色香のある表情をしている。
読んでいるのはおそらくフランス文学。イ・ミゼラビリが大のお気に入りで、イタリア語訳のものと原書を持っているくらいだし、どちらも読み込まれていて既に風雨に晒され草臥れてしまった外套のようだったが、今読んでいるのは別の本だろう。何を考えているのかわからないアジア人特有の顔をしているので、その本が面白いのかどうかをジョルノの表情から読み取るのは無駄ってやつだ。
ミスタは手入れの終えた銃を確認する。発砲点検はここじゃ出来ないが、ミスタが銃を手にしてから点検で失敗したのは一度だけだ。それに何かあれば小煩いピストルズが正当な権利としてクレームをガンガン訴えてきてくれる。
奴らにとっては住処同然なので、ちょっとでも気に入らない事があれば世界の崩壊が始まらんとばかりに喚き嘆き怒るのである。ちったあ静かにしてろといつも怒鳴るが聞きやしない。なんだってうちのスタンドは喧しくて飯がないとストライキしやがる面倒くさいやつなんだ、とも思うがまあこの騒々しいやり取りは嫌いじゃない。
満足して定位置に銃を収めると、ジョルノが本を閉じて窓から離れた。そろそろジェラートを食べたくなったに違いない。冷蔵庫は甘党のドン・パッショーネの為に安心安全高価格の日本製である。おかげでジェラートが食べる前に無残な姿になることはない。
「ミスタ、今度工事します。信頼のおける業者を探してください。今年の夏は暑い。耐えられない」
流石のジョルノの肌にも汗がダラダラと垂れている。まるでアフォガードだ。ジョルノは溶けかけのジェラートをことさら嫌っていて、液体化していくのを見るのは不愉快だと常々ミスタやフーゴには漏らしている。昔、ほんとに小さい頃、不味くなったジェラートを食べて嫌な経験をしたらしい。
「ジョジョ〜、そういうのはフーゴに頼んでくれよォ」
「あんた、暇でしょ」
「ジョジョが窓辺で遊ばなくなったら考えてやってもいいぜ」
ジョルノは不機嫌な顔をしたが、ジェラートを優先して部屋を出ていった。命を狙われている癖に自由気侭で皆を振り回すさまはギャングスターというより我儘なプリンチペッサだなあ、なんて聞かれたらやばい事は胸の中に仕舞って、ジョルノの私室を出る。フィオール・ディ・ラッテが食べたくなってきたのだ。
