結婚式当日まで、リムルは結婚式以外の仕事でバタバタしていたのだが、独身のくせにガゼルが「結婚式を挙げるならこうしたほうがいい」とか言い出したり、エルメシアから「こんなアクセサリーはどう?」とか、ヨウムからの「結婚したら相手のこういう発言には気を付けないとガチギレされる」とか、やたらと構われるようになったので、うんざりしていた。
ガゼルには「貴殿の貴重なご意見を参考にさせて頂きたいので、是非ともその手本を見せてくれ」という内容で手紙を送ったら無言になった。リムルより先に結婚式を挙げてくれたらいいものを、そんな予定はないらしい。ガゼルの女関係については全く聞いたことがないし、その辺りを聞くのは野暮だろう。王としては大先輩だし、ハクロウとの師弟関係において兄弟子面をしたがるから、結婚式について色々教えてくれたのだろうが、そんなのはべスターが全部考えてくれることになっているので、リムルにアレコレ教えてくれても困る。式の主役としてどうすればいいか教えてくれるならまだしも、式の準備までにすべき根回しなどはリグルとミョルマイルに任せているし、そういうのはリムルが一生懸命対応することではない。
また、エルメシアからのアクセサリー云々は豪華絢爛なティアラやネックレスや指輪や、それはもう歴史的価値も資産的価値もありそうで、思わず一緒にいたミョルマイルと共に悲鳴を上げかけたが、必死に取り繕い、お断りさせてもらった。全てが女性用だったし、あんな価値のあるものを身に着けて歩ける気がしなかったのだ。
しかし、女装趣味はないというのに、何故周囲はリムルに女装させようとするのだろう。無論、シズに似せたこの擬態が可愛いのは認める。ただ、中身は三十七年間童貞だった壮年の普通のオッサンなのだ。可愛い女の子は好きだけれども、可愛い女の子になりたいなんて一度も思ったことはない。女の子にチヤホヤされるのは大歓迎だが、最近はリムルに女装させるために女の子が集まるという悲しい事態が頻発している。昔からそういうことは間々あったが、近頃はその頻度が凄まじいというか、ただの着せ替え人形から、ガチの女の子にさせようと化粧道具のレクチャーまでされ始めていて、リムルはヒイヒイ言いながら逃げ回っている。
しかも、ベニマルはそんなリムルの女装を「お疲れ様です」としか言わないので、可愛く装う必要性を感じないのだ。ベニマル曰く、確かに可愛いのは可愛いけれど、リムルが楽しそうではないのでそれを伝えるのは憚られるとのことだった。
可愛いと思ってるならそう言ってくれ、それならまだ楽しめるかもしれない、と一瞬腹が立ったが、いやいやこれを楽しんでしまったらダンディーな自分を見失うかもしれないじゃないかと気を引き締めた。女装して変化していった男の体験談をネットで読んだ時は笑い話にできたのに、リムル自身がそんな事態に陥ってしまったら、全然笑えなくなる。
大体、ヒナタやマサユキはリムルがサラリーマンのおっさんだったことを知っているので、この結婚やベニマルとの間に子を儲けたことについてもかなり驚かれていたのに、更に女装を楽しんでいると知られたら、ヤバいおっさん扱いされるに決まってる。そんなの嫌だ。
若い連中からヤバイ奴扱いされるのがどれだけ精神的ダメージを食らうのか、リムルはゼネコン時代に既に身を持って知っているので、ベニマルとのあれこれはまだしも、全然関係ない女装についてだけは、絶対に認めてはいけないと堅く決意した。
さて、最近結婚したばかりのヨウムにはパートナーを怒らせないための注意事項だけでなく、式のあれこれについて、主役としての感想を聞いた。
やはり、主役というのはかなり気が張る上に、挨拶周りばかりで料理を食べることなんてないとか、笑顔で手を振りながら街中を馬車で回ったなどと聞いた時、リムルの脳内には日本でよく見た皇族の映像が蘇った。アルカイックスマイルを浮かべて優雅に手を振る国の象徴達を何気なく見ていた頃が懐かしい。リムルはそれをベニマルと並んでする必要があるかもしれない、いや、確実にやらねばならないだろう、考えるだけで疲れる。
あとはパーティーで色んな招待客に挨拶する時、元々育ちがいいとは言えないヨウムは緊張しまくってかなり大変だったという。その辺りはミュウランがサポートしてくれたので、何とかなったらしいが、王様って面倒だなとヨウムは溜息を吐いていた。リムルもそれは大いに同意した。ベニマルはこういう場面に強いといいのだが、どうなるかは分からない。ただ、平民だったリムルと違って、族長の子息として育っているのだから、こういうイベントには慣れていることを祈るばかりである。
また、式の段取りについてもべスターやミョルマイル、シュナと話し合う度に頭を悩ませる羽目になった。
会場は闘技場に決まったのは納得できる。収容人数の都合や、収容できなかった人々用へのモニター等の設備について考えれば、闘技場しかない。式当日までに、闘技場は改修工事を行うことになったが、その場合、どのように設営すべきかをゲルドやミルドを交えて話し合う必要があるが、そもそも、段取りを決めなければその判断がつかないのだ。
さて、リムルが日本人だった時に参列した結婚式は、教会式とか神前式とか色々あった。要するに誰にこの結婚について誓うのかによって、呼び名が変わる。信仰する神のタイプによって誓いの言葉などは全く異なるが、二人が結ばれることを社会的に認めることが目的なので、証人は文化に根付く、決して裏切ってはならない存在になるものである。
では、リムルは誰に誓うべきなのか。その点について、リムルの盟友であり、ジュラの大森林の守護神であり、最強の竜種であることを鑑みて、ヴェルドラにすべきだろうとべスター達は提案した。リムルからすれば友達にそんなもん言いたくなさ過ぎて却下したいのに、守護神に誓いを立てる以外に何の案も浮かばなかったので、結局ヴェルドラを前にしてリムルとベニマルは婚姻を誓うことになった。
ベニマルは「まさか、あの暴風竜に祝福される日が来るなんて、大鬼族だった時には想像すらしなかったぜ」と呆けていたが、その前に男だと主張しているスライムと結婚してる事がおかしいのだと忘れているようだった。
とにかく、ヴェルドラの前で誓うということはヴェルドラも参加するというのを意味する訳だが、本人は竜の姿で祝う方が豪華で厳かでよいのではと自信満々に主張し、皆がリムルの誓約之王による万能結界でヴェルドラの暴力的な魔素を抑えてくれるならその方がいいと意見が一致してしまった。つまり、リムルのやることが増えたのだ。なんでリムルがそんなことを頑張らねばならないのか、と思うのだが、確かに人型のヴェルドラよりも竜の姿のヴェルドラの方がかっこいいのは間違いない。結局、面倒臭さよりもかっこいいのをリムルは選んだ。なにせ一生に一度のイベントである、かっこいい方がいいに決まってる。
また、パレードコースを決める必要があった。とりあえず式の前に執務館から闘技場に向かうことは決まっているのだが、そのコースはかなり短いので、観衆へのお披露目にしてはあまりにも足りないというのだ。しかし、テンペストはかなり計画的に設計した都市構造をしているため、却ってあちこちの地区に寄ろうとすると無駄に時間がかかるので、そうなると警備隊の手間が増える。パレードコースについては警備隊との話し合いも必要なので一旦保留になったが、リムルとしては出来る限り短めでお願いしたいところである。
因みに挙式を終えたら披露宴もそのまま闘技場で行い、その後は来賓地区に移動して開国祭同様に各国の来賓方とのパーティーが催されることになっている。
一度たりとも自分が結婚するなどと思わなかったので、本当にこんな流れでいいのか? ていうか面倒臭すぎでは? とリムルは内心半泣き且つ半ギレだったが、やると言ってしまった手前、そんな愚痴を言えない。
さて、今、リムルは虚無になりながらシュナの家の和室に立っている。周りでせわしなくシュナが布と格闘しているのを見て、こんな面倒なもの全然着たいと思わないと改めて強く思いながら、リムルは白無垢を着付けられている。
とにかく披露宴でのお色直しで白無垢を着せようとするシュナに、絶対嫌だ、動きにくいし、タキシード同様、二人共紋付き袴でよくないかと提案し続け、互いに譲らなかった結果、白無垢姿をシュナとベニマルだけに見せることで決着がついた。本番ではリムルの要望通り紋付き袴を着れるので、もういろいろと諦めることにしたのである。
着付けも大したものだったが、髪を結い上げるのも相当な手間で、本当にこんな事を世の女性は頑張って耐えて結婚式に臨んでいるのだとしたら物凄いパワーであると改めて女性の強さを知った。
因みに面倒な連中にはこの試着について一切伝えていないので、バレたらかなりややこしいことになりそうなのだが、こんな姿を周知したくないリムルは二人に緘口するよう命令した。女装姿を知られたくないからって職権乱用していいのかと問われるかもしれないが、リムルの羞恥心が爆発しないための自衛措置なので仕方がない。仕方がないのだ。まあ、鬼の兄妹はそれを勿論ですと嬉しそうに応えていたので、心配はいらないだろう。
着付けも髪結いも化粧も終えて、居間で待っているベニマルのところに行けば、ベニマルは絶句した後腰を抜かした。似合わないのならそう言えよな、と呆れていたら、「すっげえ綺麗だ」と目を潤わせながらベニマルが立ち上がり、リムルを抱き締めた。シュナの前でそんなことをするなんてめちゃくちゃ恥ずかしいし、何だかシュナが怒りの波動をにじませているような気がするので離してほしいと思いつつ、女装してこんなに喜んでもらえたのが初めてで、リムルもドキドキしながら、ぶっきらぼうに「そう?」とだけ返した。
「本番では着ないと聞いたが、本当に着ないのか?」
「やだよ、これ動き辛いし、恥ずかしいもん」
「勿体ないが、まあ、こんなに綺麗なリムル様を俺達だけが見れたんだから、いいか」
至近距離でしっかり見つめられて、リムルは異様に照れてしまい、目を逸らす。多分ベニマルと二人きりならこのまま乳繰りあってたかもしれないが、ここにはシュナの目があるので、そっと離れる。
「ではリムル様、次は色打掛と引き振袖を着ましょうね」
「ん? 待て、なんだそれ、聞いてないけど?」
「リムル様が本番では紋付き袴がよいと仰られたので、ならばこの試着の時に他の衣裳も着ていただこうかと思ったのです」
というわけで、水色の生地にやたらと鳥が飛んでる柄とか、白い生地に淡い色の牡丹が咲き乱れてる柄とか、やたらと何着も着付けられて、リムルは疲れ果てた。なんせ、何を着てもベニマルもシュナも喜ぶし、段々色の組み合わせで印象が変わることにリムルも面白いかもと思い始めたりして、盛り上がってしまったので全然終わらなかったのだ。
因みに故郷ではよく見た綿帽子も角隠しも大鬼族にはないものらしく、婚姻時の装束としては髪飾りを派手にすることが一般的だという。角があるのに角隠しなんてつけれないから、なくて当然なのだろう。その髪飾りもシュナがドルドに協力してもらいながらいくつか思い出の品を再現したという。中でも、シュナが母親から受け継ぐ筈だった簪を元に新たに作られた物をリムルの髪に挿した時にはリムルも慌てたのだが、シュナは付けてほしかったのだと話した。
「恐れ多くもわたくしはリムル様の義理の妹になりますから、リムル様に大鬼族に伝わる何かを差し上げたかったのです」
着の身着のままで逃げてきたシュナは、一族にまつわるものを何も持ち出せなかった。豚頭族が全てを食い尽くしたから、何も残っていなかった。だから大鬼族の伝統はこれから作り直すしかない。そんな中で、今回の結婚式騒動があったので、シュナは簪を作り、リムルがベニマルと共に生きることを祝おうとしたのだろう。何だか泣けてきたが、それでも女物のアクセサリーは着けないぞ、と鋼の心で決意しながら、シュナの思いを受け取った。
「それにしても、シュナが俺の妹かあ。年の離れた兄貴しかいなかったから、めっちゃ嬉しいよ」
「わたくしも、リムル様の家族になれてとても嬉しいです」
本当はもっと近い家族関係を築きたかったのですが、とシュナは笑ったが、何だかツッコむと面倒な事になるような気がしてそれ以上は聞かないようにした。妹も充分近い家族関係だと思うよ、なんて言葉では多分だめな気がする。こういう時の直感は大事にしておくべきである。
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結婚式当日を迎えた朝、かなりの早朝からリムルはべスター達と何度も念入りにプログラム進行を確認し合い、ベニマルに何度も手順を叩き込み、リムル自身もセリフを何度も暗誦して、リハーサル通りにやるぞ! と士気を高めた。開国祭では何かあってもある程度対処できるだろうという自信と余裕があったが、自分の結婚式ではそんなものは全て吹っ飛んでしまっている。
パレードのルートも闘技場の一時的改修工事も全てどうにかなったのは、ひとえに皆の頑張りのおかげなのだ。このイベントは開国祭同様、テンペストの国力を見せつける示威行為でもあり、単なるキャッキャウフフな結婚式ではないので、失敗は許されない。
執務館の扉の中から、外で待ち構えている報道陣や民衆達のそわそわした空気を感じると、リムルにもそれが伝染って、指を忙しなく組んだり、踵をつけて爪先で床を叩いたり、キョロキョロしたくなったり、落ち着かなくなったが、ベニマルは泰然自若として立っている。目を閉じて、腕を組み、寝ているようにも見えるが、そうではないらしいことは分かる。もうすぐしたら二人で扉の外へ出ていくというのに、全然余裕な態度である。
「ベニマル、覚悟はいいか」
リムルは自分の緊張が凄まじいことを自覚して、心臓も胃もない体でよかったと心の底から感謝しつつ、隣に立つ伴侶に訊ねる。ベニマルは目を開けて、リムルを見ると微笑み、リムルの手を握った。
「リムル様こそ大丈夫だろうな」
「バッカ、お前、俺はバッチリだし。平気だし。じゃあ、行くぞ」
「おう、どこまでもアンタに付いて行くぜ」
ベニマルは余裕の笑みを浮かべて、リムルと共に歩みだす。こういう場面に強い男でよかった、とリムルはベニマルに足を合わせて、扉の外に出た。
待ち構えていた民衆は歓声をあげながら二人を出迎えていた。一応笑顔で手を振りながら、それに応えると一層声が大きくなった。
そんな中で、ベニマルが先行し、ランドーに乗り上げ、エスコートしてくれた。リムルとベニマルが座ると、テンペストウルフが率いる狼車はゆっくりと走り出す。パレード用に用意されたこの車はリムルとベニマルを民衆へ見せる為に屋根がなく、どんな表情をしててもモロバレなので、常に笑顔を心掛けねばならない。怠いなあなどと思ってもそんな顔は見せてはいけないのである。ベニマルはその点は心配なく、常に余裕と自信に満ちた顔でいるので、あの泣きながら告白してきた男と同一人物とは思えないなと胸の裡でぼやいた。
民衆の中には他国から来たであろう人々も加わっていたし、報道陣も慌ただしく動いているのが見える。
また、いつもは人が行き交う道を警備隊に守られながら狼車で走るのは、視界が普段と違っていて、自分で作り上げた国なのに、新鮮な気持ちになった。
多分こんな景色はもう二度と見ることはないのだろう、何故ならリムルはベニマルと分かれるつもりはないし、別の伴侶を得るつもりもない。長くなるであろうこれからのスライフでもたった一度だけの貴重で大切なイベントなのだ。
そう考えると余計に緊張して、リムルはベニマルの手を強く握った。ベニマルはふっと微笑んで、握り返してくれたから、何とかなる気がした。
闘技場に着くと、リムルとベニマルは結婚式用に誂えた礼服に着替えて、観衆の前に出る。ベニマルはいつもの赤のイメージではなく、黒地に金の刺繍が鮮やかな礼服で、普段の雰囲気とはガラッと異なり、いつも以上に引き締まって見えるし、すごくかっこいい。
リムルは白地に金の刺繍だが、花嫁をイメージすると言われた通り、女性的シルエットをしており、何だか可愛らしい印象がある。タキシードなのに女性らしさを感じさせるカッティングとデザインを完成させていることには感服するというか、そこまで女性らしい服装をリムルに着せようとする執念というか情熱というか、その凄まじさに驚いたのだが、今後も女装するつもりはないので念を押しておく必要がありそうだ。また、マント(正確にはウェディングケープというらしい)は、かなり長くて引きずるほどで、正直うんざりしたが、魔法で少し床から浮かせるようにしていますとシュナから説明されたのでホッとした。なにせ、このマントもまた艷やかな毛皮を使用し、凄まじい細かさの刺繍が施された、かなり金の掛かっていそうな芸術品だったのだ。汚したくないのと、マントの重さで首を持っていかれそうと思っていたので、浮いてくれると知ってかなり安心した。
着替え終わると、リムルが先行して闘技場の中心に鎮座する竜形態のヴェルドラの前に出る。ヴェルドラはかなり上機嫌に威厳を見せつけようとしているが、立っているだけで十分観客は圧倒されているのでこのまま何もしないでいてほしい。
リムルはヴェルドラに余計な事はするなよと思念伝達して念を押してから、観衆の方に振り向いた。入場してから湧き上がっていた歓声がピタリと止まる。
「本日は俺達の結婚式に集まってくれたこと感謝する。この場は俺が伴侶を得た事を皆に伝えるために設けた。また、伴侶たるベニマルとの関係をジュラの守護神たるヴェルドラに誓約するためでもある」
ヴェルドラが得意そうに踏ん反り返っているが、頼むから動かないでほしい、安っぽく見えるだろ、と思念伝達すると文句を返されたが無視した。
「皆には暴風竜ヴェルドラに誓う、この婚姻の立会人となってほしい」
その一言で、観客の無言の興奮が膨れ上がったのが分かる。なんでここでこんな圧を感じるのだろうか、と内心ビクビクしながら、ベニマルを呼び寄せる。ベニマルは粛々とリムルの隣に並び立ち、皆に顔を見せた。ベニマルからは自信と歓喜が感じられる。精悍な顔立ちと恵まれた高身長なので、やたらと画になるのが羨ましい。そんなベニマルに手を差し伸べられたので、その手を取り、ヴェルドラに向き合う。こうして見上げるとものすごくでかい竜だ。洞窟の中で出会った頃にはまさかこのドジなのか何なのか分からない竜に結婚を誓うなんて思わなかった。
「ジュラの守護神たる暴風竜ヴェルドラ! ジュラ・テンペスト連邦国の盟主リムル=テンペストと侍大将のベニマルの婚姻をここに誓う。我らはこの命ある限り互いを助け合い、慈しみ、共に生きていく。この結びに祝福と加護を与え給え」
神前式では誓詞奏上するのは新郎の役目であるので、この言葉を言うのはベニマルがいいのではないかと言われたりもしたが、立場上、リムルの方が上に立つのだからヴェルドラへの誓詞奏上はリムルが言う事になったのだ。ちなみに台詞はべスターの監修が入ったものの、リムルが考えたものだ。なので神前式とか教会式とか人前式とかをごちゃまぜにしたような、そのどれでもないような適当な感じになっているが、それっぽい威厳があればよかろうなのだ。
「うむ、そなたらの誓詞承った。この暴風竜ヴェルドラはそなたらの婚姻を認める」
その瞬間、何だかホッとして笑ってしまった。別に誰かに認められたいなんて思っていなかったけれど、こうして公に認められる事によって、この時からベニマルがリムルのものだと全世界に発信したのと同然なのだ。これによって、ベニマルにちょっかいを掛けるということは、伴侶の魔王リムルだけでなく、この婚姻を認めた暴風竜ヴェルドラにも喧嘩を売ることになる。リムルに対しては未だに舐めた態度をするやつもいるが、暴風竜ヴェルドラの脅威を知るものはやつに喧嘩を売ろうとはしない。しかも、ヴェルドラにビビらない連中はベニマルに興味がない。つまりベニマルを心置きなく独占できるのだ。結婚指輪よりもよっぽど効果的な虫除けである。
皆の祝いの言葉と歓声の中、ベニマルはリムルに跪き、左手の薬指につけた指輪にキスをした。その幸せそうな顔を見れば、結婚式をしてよかったと心から安堵する。
こうしてリムルとベニマルの結婚式は恙無く終わったのだった。
